株式会社デンソーテンは、車載エッジデバイス上でRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を省メモリで実行可能にする生成AI技術を開発しました。
デンソーテンの省メモリRAG技術開発の背景
生成AI(LLM)は、車載HMIにおけるスマートコックピットやスマートキャビンへの活用が進展しています。対話アシスタントによる目的地設定・ナビゲーション、ニュース/エンターテインメントの情報検索・提案、車両機能制御などがその例です。
一方で、生成AI(LLM)単体では学習していない最新情報や車両固有・ユーザー固有情報に正確に対応できない課題があります。これを補う技術として、RAGが注目されていますが、埋め込みモデルと大量の検索用ベクトルデータベースが必要なため、メモリ容量・処理性能に制約のある車載SoC・エッジ環境への実装が難しい状況が続いていました。「精度を取ると重い」「軽くすると精度が落ちる」というトレードオフが、これまでネックになっていました。
デンソーテンの省メモリRAG技術の特長と評価結果
今回開発された技術の主な特長は、以下の2点です。
- 軽量かつ高精度を維持できる独自の埋め込みモデル学習技術による、車載エッジ前提のベクトルデータベース省サイズ化
- 既存モデルとの比較でメモリ容量を30~60%削減しつつ高精度を維持
本学習技術は「言語処理学会 第32回年次大会Matryoshka表現学習を考慮した埋め込みモデル蒸留」で発表されました。2026年3月9日~13日にライトキューブ宇都宮で開催された同大会での発表であり、詳細は公式サイトで確認できます。
デンソーテンの省メモリRAG技術に関する滝口教授のコメント
神戸大学大学院システム情報学研究科の滝口教授氏は、本技術の意義について、次のように述べました。
「一人ひとりに寄り添う対話システムの実現には、各ユーザーの意図や好みを踏まえた応答が求められます。こうした情報はプライバシー性が高いため、インターネットに依存しないローカル環境での運用が望まれます。」
車載エッジデバイス上でRAGを用いた対話システムを実現する技術の重要性は、今後さらに高まるといえるでしょう。
デンソーテングループは、企業ビジョン「VISION2030」のもと、「人に寄り添うHMI」「環境にやさしい電動化」「クルマと社会をつなぐデータ連携」を軸に取り組みを進めています。今後も自動車メーカーやパートナー企業と連携しながら、モビリティ社会の発展に貢献していく方針です。
デンソーテンの省メモリRAG生成AI技術の概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 開発元 | 株式会社デンソーテン |
| 所在地 | 兵庫県神戸市 |
| 代表取締役社長 | 米本 宜司氏 |
| 技術名称 | 車載エッジでRAGを省メモリ実行する生成AI技術 |
| 対象環境 | 車載SoC・エッジデバイス |
| 主な効果 | メモリ容量を30~60%削減しつつ検索精度を維持 |
| 適用想定 | HMI対話アシスタント(スマートコックピット・スマートキャビン) |
| 学術発表 | 言語処理学会 第32回年次大会(2026年3月9日~13日、ライトキューブ宇都宮) |
| コメント提供者 | 神戸大学大学院システム情報学研究科 滝口教授氏 |
trends編集部の一言
メモリ容量を30~60%削減しながら、検索精度を維持できるという結果は、車載領域に限らず注目に値します。生成AIの活用では「精度を上げると重くなる」というトレードオフが業界横断で共通の壁になってきました。
オンデバイスAI領域では、クラウドに依存せずローカル環境で高精度な推論を実現する設計思想が急速に広がっており、本技術が採用するアーキテクチャはその潮流と軌を一にするものです。特に興味深いのは、プライバシー保護の観点からインターネット非依存のローカル環境での運用を想定している点です。
クラウド連携なしに個人の嗜好や行動履歴を活かした対話を実現するアーキテクチャは、マーケティング業界の文脈に置き換えると、ファーストパーティデータ活用を巡る業界動向とも重なる設計思想でした。生成AI実装市場では、精度・コスト・プライバシーの三要素を同時に最適化する技術が次の競争軸になりつつあり、業界全体の動向としても注目される取り組みといえます。
References
- ^ PR TIMES. 「車載エッジでRAGを省メモリ実行する生成AI技術を開発 | 株式会社デンソーテンのプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000004601.html, (参照 26-06-18).
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