GAS(Google Apps Script)と生成AIを組み合わせた企業研修を提供し、ニッセイアセットマネジメント株式会社の社員のスキルアップと業務効率化を同時に実現した事例をご紹介します。研修期間の中で、プログラミング経験がほとんどない社員が生成AIを活用して自らコードを書き、月間90分の業務を10分に短縮する成果を出すなど、単なる学習にとどまらず、実際の業務効率化にも直結する「お得な研修」となりました。本研修の背景や内容について、担当者の方々にお話を伺いました。
スピーカー

ソリューション部ソリューション・リサーチ・ヘッド

ソリューション部デジタルアンドアドバイザリー業務室
課長

ソリューション部
アソシエイト
ニッセイアセットマネジメント様の研修導入の背景と課題
ー今回の研修テーマとして業務効率化や自動化を選ばれたその背景や、弊社を研修パートナーとして選んでいただいた理由についてお聞かせいただけますか?

ニッセイアセットマネジメント株式会社 ソリューション・リサーチ・ヘッド 鹿子木 亨紀 氏 (以下、鹿子木):ニッセイアセットマネジメント株式会社 ソリューション・リサーチ・ヘッド 鹿子木 亨紀 氏 (以下、鹿子木):当社ではDXを中期経営計画の柱の一つとして位置づけ、全社をあげて推進しています。その一環として、2021年度から「DXブートキャンプ」を毎年実施し、内容を進化させながら継続してきました。今回の研修はその第4回目にあたります。
毎年テーマを変えており、今回はプログラミングに関する研修を実施したいと考えていました。昨年は自前で研修を実施していましたが、今回は研修の専門の方の力をかりつつ、当社にあった研修を行いたいと考えていました。業務設計の方法やプログラミングの基本をしっかりと押さえつつ、当社の環境や業務に寄り添った研修を行っていただき感謝しています。
弊社、ニッセイアセットマネジメントは資産運用会社なので、数字を扱う業務がほとんどです。業務システムはありますが、個々人のExcel上で行っている業務が非常に多く、一部にはVBAの職人的な方がいる状況でした。
元々プログラミングスキルを持つ人材はそれほど多くない一方で、生成AIの社内活用については2年前から力を入れており、インフラも整備して社員の利用率は80%以上と定着してきています。生成AIはコードを書く部分でも非常に強いので、これをうまく組み合わせれば、今までプログラムを書いたことがない人でも自分でプログラムを書いて業務を自動化できるのではないかと考え、今年はこのテーマで取り組むことになりました。
研修参加者の選定と特徴
ー今回30名の方が参加されたようですが、どういう基準で参加者が集まったのでしょうか?また、参加された方の期待値はどんな感じでしたか?
鹿子木:参加者30名は完全に自薦という形で、「こういう研修をやります」と告知して応募してきた人を選びました。ちょうど30名集まったので、部門のバランスなどで選ぶ必要がなく、結果的に部署もうまくばらけました。
運用会社なので、フロント(運用分析などを行う部門)の社員もいれば、バックオフィスで事務をする方々、コーポレート部門(経営企画や人事など)の方々もいました。年齢層も入社1、2年目の若手から50代のベテランまで幅広く、基本的にはプログラミング経験がほとんどない方が多い構成でした。
ー普段こういう手挙げ方式で研修をすると、御社の中では積極的に参加される方が多いのですか?
鹿子木:そうですね、テーマなどにもよりますが多かったですね。この「DXブートキャンプ」と名付けた研修は今回が4回目ですが、1回目は20名の募集に40名ほど応募がありました。2回目は同じテーマ(アイディアソン的な内容)で実施したところ、ちょうど20名程度の応募となり、需要が一巡したと感じていました。今回の新しいテーマでは再び多くの方が参加してくれました。
研修内容の特徴と工夫

ー研修内容に移りますが、今回私たちはプログラミング未経験の方々が1、2ヶ月という短期間でアプリケーションを開発できるようにするための方法を検討しました。専門の講師や研修業者を活用して良かったポイントはどのような点でしょうか?
鹿子木:プログラミングだけでなく、自動化対象の業務の整理をしっかりと行えたことが非常に効果的だったと考えています。初回の講義・ワークショップでは業務の整理を行い、その上で2回目の講義・ワークショップはプログラミングの基本を学んで実装に進むという形にしていただいたのが適切だったと思います。
ーチャットやオンラインの質問会などがあったと思いますが、それらはどのように使い分けられましたか?

延広洋子 氏 (以下、延広):人によってサポート形態を使い分けていました。直接聞きたくて質問会を目指して準備する方もいれば、自分である程度わかっているから、チャットでの軽い質問だけで良いという方もいました。両方のサポート形態があったことが良かったと思います。
貞包延江 氏 (以下、貞包):画面を見せながら説明を受けた後に、チャットで先生からまとめていただいたものを自分で振り返り、改善されている方もいました。オンラインとオフラインのハイブリッドの良さがあったと思います。
鹿子木:今回は基本的に個人プロジェクトという形にしました。グループワークにはモチベーションを保つなどの良さがありますが、これまでの研修ではソースコードを書く場合にできる人が1人でやってしまうという問題がありました。今回はみんなに一定程度スキルを身につけてほしかったので個人作業にしましたが、そうすると2ヶ月という短期間でついていけず、置いていかれる人が出ないかという心配がありました。そこは複数回のオンライン質問会やチャットでの質問対応でフォローいただくことで、クリアできました。
ープログミングの基本やデバッグの方法についてはいかがでしたか?
貞包:

貞包:生成AIでプログラミングをしたものを動かす場合、運よくそのまま動く時とそうでない時があります。プログラミングの基本を学んだことは、生成AIで出力されたプログラムの読解に必要なものでした。
また、本当に初心者だったのでデバッグとは何かというところから教えていただけたのは良かったです。1行ずつデバッグするためのステップ実行や、プログラムの動作状況を確認するためにログ出力を行うなどは人から教わらないと難しかったと感じます。
今回は特に、GPTを使ったプログラミングを前提に、デバッグのやり方に力を入れて教えていただきました。GPTにプロンプトを投げればコードは作成してもらえますが、動かないときにログを出したりブレークポイントを設定したりしてデバッグするスキルを教えていただいたのが非常に役立ちました。
エラーが出たり想定の結果がでなかった時に、GPTにその原因を確認して解決策を提示させる質問の仕方なども教えていただきました。プログラミング初心者にとって、エラーの解読やトラブルシューティングの方法を学べたことは大きな収穫でした。
研修の成果と実例
ー実際に皆さんが作成された成果物の中で、印象に残ったものを教えていただけますか?
鹿子木:今回GASを題材にしたのは、私たちがGoogleワークスペースを全員が使っているからです。ExcelでVBAを作るのとはまた違った、カレンダーやメールなどコミュニケーションツールを組み入れた自動化を実現した例が多数ありました。
今回の研修の最後に、参加者が作成した成果物を「業務削減インパクト」「技術レベル」「社内での展開可能性」などの観点から評価し、優れたものに表彰が行われました。
その中で社長賞を受賞したのは、運用会社特有のRFP業務(お客様からのデューデリジェンスのための質問状への回答作成業務)の進捗管理システムでした。社内のさまざまな担当者に回答を依頼し、それを回収してまとめる業務の進捗管理の仕組みをGASで作成しました。
Googleスプレッドシートで進捗管理表を作り、それに基づいて各担当者へのリマインダーメールもGmailで下書きを作成するというように、Googleワークスペースをうまく活用した自動化ができました。
この成果物を開発したのは本日インタビューに参加しているチームメンバーでもある2人で、彼らの体感では、月間で90分かかっていた業務が10分に短縮されたとのことです。
ーもう実際に運用されているのですか?
延広:導入している状態で、テスト運用中です。
研修成果物コンテスト受賞作品
研修の最終段階では、参加者が開発した成果物を「業務整理のわかりやすさ」「業務の改善度や革新性」「実装の完成度」「利用技術の挑戦度」などの観点から評価し、優れた作品に以下の賞が贈られました。
社長賞
受賞作品
受賞作品
受賞作品
その他の注目プロジェクト
- スクレイピングを利用して各社からの提供情報を把握し、関係者に通知する。
- 各部門に依頼する担当者入力フォームを自動生成、入力済みとなった部門別情報を1ファイルにまとめる作業を自動化する。
鹿子木:他にも事務部門の若手が部内での仕事の振り分けと進捗管理の仕組みを作ったり、運用部門の若手が外部の運用会社や証券会社からメールで届く市場概況コメントを1週間分貯めて週次のまとめを作る作業を自動化したりしました。
後者は週次で50分かかっていた作業が5分に短縮されたそうです。勉強するだけでなく、実際に業務効率化という成果も出てしまったという、非常にお得な研修でした。
ー実際に2ヶ月やってみて、つまずきポイントはありましたか?できれば私たちのサポートで乗り越えられた何かがあれば教えてください。
貞包:本当に初心者だったので、都度都度、経験のある講師に質問・確認ができたことは心強かったです。例えば、「自分のメールアドレスではないメールアドレスからメールを送りたい」など実現したいことがあった場合に、技術的に可能なのか不可能なのかわからない時に相談にのっていただいて、スッキリ前に進めた、などがありました。技術的に可能かどうかの判断の他にも、現在のスキルで実装できる方法を相談できたことも心強かったです。
ー世の中には情報が多いですし、生成AIもいろいろ答えてくれますが、経験のある講師の必要性を感じましたか?
貞包:前述のように、生成AIからは受けにくい進め方についての提案や、うまく動かないが状況を言語化しきれない時に実際に画面を見ていただいて、問題の所在を一緒に確認いただいたり、より良い実装の方向性について提案をいただけたりしたことがありがたかったです。
また、プロのプログラマーとして「現実的に考えてどこまでやれば良いか」という線引きのアドバイスをいただけたのも良かったです。例えば、自身で使う場合ではいったん見た目に拘らず正しく動作することを優先する、とか、他の人に引き継ぐためには可読性高く整理する必要があるとか、そういったアドバイスもいただきながら期間内に動くものを作り上げられました。
今後の展望と期待
ー研修を実際にやられて、既に活用されている方もいらっしゃると思いますが、今後、受講された方に期待していることがあれば教えてください。
鹿子木:今回はGASを題材にしましたが、VBAに比べて経験者が少なく、Googleワークスペースと連携することでより高度な自動化ができるようになりました。このスキルを活かして他の業務自動化も進めてほしいですし、できれば周りの人にも広めて「自動化できるよ、意外と簡単だよ」ということを伝えてほしいと思います。
GASに限らず、PythonでもVBAでも、生成AIを使えばコードを書くハードルはどんどん下がっています。自分でもプログラムを書いて自動化できるという自信と手応えを掴んでもらったのが一番大きいと思います。
参加者の変化と今後への期待
ー研修を通じて参加者の方々にどのような変化がありましたか?また、今後どのようなことを期待されていますか?
鹿子木:業務整理とプログラミングのスキル自体もさることながら、自分でもプログラムを書いて自動化ができるんだという手ごたえと自信をつけてもらったのが大きいと思います。受講者アンケートでは「次はPythonを学びたい」などという意欲的な声も多く、この研修をきっかけに更なるスキルアップを目指す社員が増えています。
ニッセイアセットマネジメント研修を提供して感じた、生成AIとプログラミングの力で実現した業務効率化の可能性
ニッセイアセットマネジメント様では、生成AIとGASを活用した研修を通じてプログラミング未経験の社員でも業務自動化を実現し、「月90分→10分」「週50分→5分」といった具体的な効率化を達成しました。
特に学習内容を即実務に活かせる研修設計がそのまま業務改善という成果につながり、RFP業務の進捗管理やレポート自動化などの分野で実践的なAIとプログラミングを活用した社内DXを達成しています。
私たちも引き続き、企業の状況に合わせたカスタマイズ研修の提供を通じて業務効率化やDX人材育成などIT研修のお手伝いをしていきたいと考えています。
▼ニッセイアセットマネジメント株式会社が導入しているIT研修
ニッセイアセットマネジメント株式会社について

ニッセイアセットマネジメント株式会社は、日本生命保険相互会社グループの資産運用会社として1995年に設立されました。国内外の株式や債券などの伝統的資産からオルタナティブ資産まで幅広い運用商品を提供し、機関投資家や個人投資家の資産形成に貢献しています。DXの推進にも積極的に取り組み、生成AIの利用率80%以上と業界でも先進的な取り組みを行っており、社内業務の効率化や顧客サービスの向上に向けた独自の人材育成プログラムを展開しています。
会社名 | ニッセイアセットマネジメント株式会社 (英文名:Nissay Asset Management Corporation) |
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代表者 | 代表取締役社 大関 洋 |
設立 | 1995年 |
資本金 | 100億円 |
所在地 | 本店 〒100-8219 東京都千代田区丸の内1-6-6 日本生命丸の内ビル |
取扱業務 | 投資運用業、投資助言・代理業、第二種金融商品取引業に係る業務 |