株式会社三菱総合研究所と株式会社PKUTECHは、生成AIが情報の時系列変化や意思決定の経緯を踏まえて回答できるRAG技術「AI Memory RAG」を共同開発しました。
AI Memory RAGが解決する従来のRAGの課題
業務での生成AI活用が進む中、企業独自のデータを活用する技術としてRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)が広く利用されています。RAGは、事前に学習した情報に加えて、自社データなどの関連情報も検索して回答の正確性を高める技術ですが、従来の方式にはいくつかの課題がありました。
課題として挙げられるのは、主に次の3点です。
- 継続的に蓄積される情報の変化を追跡しにくい
- 過去の議論や変更経緯、合意形成プロセスを踏まえた回答が難しい
- 一見独立した出来事同士の関係性や時間経過による変化を把握しづらい
株式会社三菱総合研究所が取り組むインテリジェンス領域や株式会社PKUTECHが展開する議事録管理・問い合わせ対応支援領域では、「時系列性」と「文脈の蓄積」が特に重要です。一般的なRAGでは、これらの要件に十分な対応が困難でした。
こうした中、両社はAI Memoryをベースに情報の時系列性と文脈を適切なデータ形式で保持・検索する技術を付加し、「AI Memory RAG」を実現しました。
AI Memory RAGの構造と回答生成の仕組み
AI Memory RAGは、ニュースや議事録などを主な検索対象とし、既存のAI Memoryが検索対象のデータを保存する方式を拡張した技術です。文書の内容や特性に応じて構造化することによって、時系列的な変化や人物・キーワード間の関係性を考慮できる点が特徴です。
具体的には、ニュースや議事録などの文書データをページや章、表、メタデータなど複数の粒度で分解した上で、保存形式を自動判定し、以下の構造で保持します。
- 時系列構造:議論や出来事の推移を時間軸に沿って保存
- グラフ(ネットワーク)構造:発言者・キーワード・関連人物の関係性を構造化
- リポジトリ(変更履歴)構造:要件定義書や法令など変更履歴が重要な情報を管理
回答生成時には、この構造化データとAI Memoryの問い合わせ処理機構を組み合わせます。単発の類似検索ではなく、問い合わせ内容を分析した上で必要なデータ取得・推論の手順(回答計画)を生成する仕組みです。
例えばシステム開発プロジェクトで仕様変更の経緯を問い合わせる場合、関連する議事録を時系列で取得します。その上で意思決定者の過去の発言やステークホルダーとの関係性を分析し、意向が変化した時点と要因を抽出するという複数のステップを経て回答を生成します。
AI Memory RAGの活用領域と今後の展開
AI Memory RAGが想定する活用領域は、次の3つです。
第一に、継続的に流入するニュースやレポートから個別事象の関係性や変化の兆候を抽出する「ニュース監視・インテリジェンス分析」です。第二に、要件定義から開発に至る議論や変更経緯を保持し、意思決定の文脈を踏まえた検索・回答を実現する「開発管理・議事録管理」に役立ちます。第三に、問い合わせ履歴や障害対応記録から過去の経緯や判断理由、対応状況を提示することで引き継ぎ負荷を軽減する「ナレッジ継承」です。
今後は、精度検証や実証を通じて実用性を高め、両社のAIソリューションへの展開を目指します。株式会社三菱総合研究所では、企業のインテリジェンス業務を支援するAIソリューション「インテリジェンス基盤」において、ニュース監視・ナレッジマネジメント技術としての活用を検討中です。株式会社PKUTECHでは、AIエージェント基盤「Egeriaシリーズ」に「Egeria-AI Memory RAG」として搭載を進めていきます。
AI Memory RAGの概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 共同開発企業 | 株式会社三菱総合研究所 / 株式会社PKUTECH |
| 技術名称 | AI Memory RAG |
| 技術分類 | RAG技術(Retrieval-Augmented Generation) |
| 主な検索対象 | ニュースや議事録など(想定) |
| 保持構造 | 時系列構造・グラフ(ネットワーク)構造・リポジトリ(変更履歴)構造 |
| 主な活用領域 | ニュース監視・インテリジェンス分析、開発管理・議事録管理、ナレッジ継承 |
| 特許 | 出願中 |
| MRI担当部署 | AIコンサルティング本部 |
| PKUTECH担当部署 | DXコンサルティング本部 |
株式会社三菱総合研究所 会社概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社三菱総合研究所 |
| 本社所在地 | 東京都千代田区永田町二丁目10番3号 |
| 代表者 | 代表取締役 社長執行役員 籔田健二氏 |
| 事業内容 | シンクタンク・コンサルティングサービス、ITサービス |
| 資本金 | 63億3,624万円 |
| 設立 | 1970年5月 |
株式会社PKUTECH 会社概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社PKUTECH |
| 本社所在地 | 東京都千代田区神田西福田町3番地 RBM神田ビル7階 |
| 代表者 | 代表取締役社長 劉 甚秋氏 |
| 事業内容 | AI・データ分析、マルチクラウド基盤とセキュリティ、ローコード開発プラットフォーム |
| 資本金 | 9,750万円 |
| 設立 | 2007年2月 |
trends編集部の一言
「時系列性」と「文脈の蓄積」を構造化データとして保持するという発想は、単純な類似検索を超えた情報活用の転換点として注目されます。マーケティング業界の文脈に置き換えると、キャンペーンの意思決定経緯や施策の変更履歴を後から横断的に参照できる仕組みへの需要は、チームの規模や業種を問わず広がっており、「なぜその判断をしたのか」を掘り起こすコストの削減は業界全体の共通課題と言えるでしょう。
業界全体としては、意思決定の文脈を蓄積・再参照する仕組みへのニーズがBtoBマーケティングやコンテンツ運用の現場でも高まっており、過去の施策変更経緯や承認フローを横断的に検索できるRAGは、チームの意思決定速度を上げる可能性があります。特許出願中という点からも開発側の本気度がうかがえ、「Egeriaシリーズ」や「インテリジェンス基盤」への展開がどのように進むか注目されます。
References
- ^ PR TIMES. 「三菱総合研究所とPKUTECH、「AI Memory RAG」を共同開発 | 株式会社三菱総合研究所のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000265.000050210.html, (参照 26-07-10).
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