研修の概要と成果
いよぎんコンピュータサービスは、愛媛県最大級の金融ITサービス企業として銀行システムの開発・保守を担う。特に従来にあるように銀行の子会社という位置付けではなく、銀行と対等の戦略的IT企業である。
同社では中期経営計画で人的資本拡張とIT人材の獲得・育成を表明し、アジャイル開発要員を毎年10名ずつ育成するなど優秀な人材の採用と育成に力を入れている。
そんな同社が2024年度から導入した新入社員向けIT研修は、2年連続で実施され大きな成果を上げている。
研修を受けた新入社員は配属後の立ち上がりが早く、新人のパフォーマンスの期待値として0.4人月としていたが(1人ではなく、0.4人程度の働き)、配属後3ヶ月後には0.52人月と当初想定の約30%の生産性向上を実現した。さらに2年目社員が1年目を指導する若手育成サイクルが確立されるなど、継続的な成長の仕組みが生まれている。
今回、愛媛県松山市の同社本社を訪問し、研修導入の背景から具体的な成果まで、採用担当、現場責任者、技術メンター、そして実際に研修を受けた若手社員に話を伺った。
スピーカー
総務部・シニアアドバイザー 採用担当
システム部・シニアエキスパート
開発・研修担当
システム部・課長 情報処理安全確保支援士
システム部(24年度研修卒業生)
採用規模拡大とスキルのばらつきという課題
2024年卒から、同社は採用方針を大きく転換した。それまで即戦力が期待できる専門学生中心の採用から大卒者を積極的に採用する形へとシフトした。数名であれば、現場の先輩が1対1でフォローアップできたが、10名を超えると従来のマンツーマン指導では対応できないし、本来の開発作業にも影響が出ることも懸念された。
加えて、理系と文系が半々程度という構成で、スキルのばらつきも大きかった。理系学生であっても、国立大学の理系学生がプログラミングを専門に学んでいるとは限らない。IT初心者やプログラミングの授業で少し触れた程度から、本格的にプログラム開発経験者が混在していた。
こうした課題に対応するため、同社は外部の教育サービス会社の利用を検討開始した。複数社の中から候補を選定する上で、選定基準を次の3つにして絞った。1つが、他社での採用実績やこれまでの受講者数などの実績が多いこと。次に、研修受講期間中に、いよぎんグループの基礎研修会日程を組み入れ可能か?それと人材開発支援助成金の申請対象の研修という点でこれを満たした事業者*1へ最終決定した。
30%の生産性向上を実現した3つの成功要因
さて、冒頭で記載した「新人のパフォーマンスの期待値として0.4人月としていたが、(1人ではなく、0.4人程度の働き)からスタートするところ、配属後3ヶ月後には0.52人月と当初想定の約30%」となった具体的な要因3つの内容をここから解明していこう。
要因1:「意地悪な研修」とそれを支える信頼関係の構築
「CodeCampの研修は意地悪なんです!分かりやすく教えるだけでなく、あえて困難な課題を与えたり、つまずきを経験させたりする“意地悪な研修”が、新入社員の現場での即戦力化の1つ目の要因です。」
さらに、株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部 課長・情報処理安全確保支援士の藤井 志朗氏(以下、藤井氏)はこう語る。
「25年度は研修初日の3日間で、講師・事務局と受講者が昨年よりも信頼関係を築けたことが、研修成功の要因であろう」と。
どういうことだろうか。
同社が採用したCodeCampの学習内容を見ると、基礎知識の定着を目指す学習項目でありながらも、演習問題(指定された挙動をするプログラムを作成するなど)に取り組む際には、テキストに記載されている内容だけでは対応できず、自ら調査し、考察する力を養う構成となっている。
また講師も受講者に対して答えを教えたり、“ヒント”を追加したりすることはせず、「考え方」や「進め方」を提示するというスタンスをとっている。
高平氏(コードキャンプ社)は次のように語る。
「現場に出たら、先輩や上司が答えを教えてくれることはありません。また、常に唯一の正解があるわけではないため、自身で最適なものは何かを考え、それを上司や先輩と相談することが求められます。研修の場では失敗しても構いませんので、この経験をできる限り多く積んでもらえるよう、研修内容や講師の関わり方を設計しています。」
受講生は自分で問題を解決しながら前に進む力を養い、現場配属後の自走力につながる仕組みだ。
藤井氏は次のように評価する。
「分かりやすく教えるだけでなく、あえて困難な課題を与えることで、自分で問題を解決して前に進むという力が身につきました。現場に配属された時に、自分で考え自ら行動するスキルが養われたと思います。」
加えて、この「意地悪な研修」を成立させるには、受講者と講師・事務局の間に信頼関係があることが前提となる。
CodeCampの研修は、現地研修とリモート(オンライン)を組み合わせたハイブリッド型が特徴だ。受講者が主体的に学習を進め、不明点をWeb会議やチャットツールで講師へ質問するという形式で実施される。
研修初期の3日間は、講師や研修運営担当のカスタマーサクセスリーダーが研修会場に終日常駐し、受講者と意図的に多くコミュニケーションを取る。これは、その後の研修をスムーズに進めるための信頼関係を構築する狙いがある。
「初期の3日間だけでなく、研修期間をより有意義に過ごせるよう、現地常駐中の質問支援や声掛け、昼食、懇親会の設定なども細かく計画しています」と、コードキャンプ社のカスタマーサクセス部長である高平氏は語る。
株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部(24年度研修卒業生) 柳田 祐佳氏(以下、柳田氏) は受講生として「初日から3日間は説明を受けながら一緒に学習や質問ができました。今年の受講生に聞いたところ、3日間運営担当の方がいらっしゃることで、受講生同士の間でも質問しやすい雰囲気が醸成されたとのことです。一緒に過ごす時間が長いほど信頼関係が築かれ、自然と質問や相談がしやすくなりました」と振り返る。
要因2:2年目社員が教える若手育成サイクルの確立
研修導入2年目にして、早くも前年度の卒業生が後輩を指導する立場となり、先輩による後進育成のサイクルが回り始めている。研修を受けた新入社員が翌年は指導員として参加することで、自ら経験したからこそ受講生がつまずくポイントが分かり、また困難さを理解しているため過度に手を出さない適切な指導が実現している。
藤井氏は「若手による育成サイクルが動き始め、指導される側も指導する側も共に成長できています」と語る。
柳田氏は教える立場になって得た学びについて「教える立場になると、自分が理解しているだけでは不十分で、さらに深い理解が必要です。後輩に教えることで後輩は知識を得られ、先輩としても学び直しの機会になると感じました」と振り返る。
さらに「2年目になり後輩を指導する立場になると、まず全体像を自分で理解しておかないと、なぜその説明が必要なのか、後輩にどこまで説明すべきかといった判断ができません。自分がどの程度理解しておくべきか、今何を学んで理解しておくべきかという視野が、1年目と2年目では大きく変わりました」と、教える立場が自身の成長を促進したことを語った。
要因3:ベテラン技術メンターによる「由賀クラス」での実践指導
コードキャンプによる基礎研修後、同社では「由賀クラス」と呼ばれる社内フォローアップ研修を現場配属と並行して実施している。株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部の技術基盤を築いた豊富な経験を持つベテラン社員が技術メンターとして、基礎研修では扱いきれなかった実践的な技術を指導する取り組みだ。
株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部 シニアエキスパート 開発・研修担当 由賀 剛氏(以下、由賀氏) は「基礎研修では時間の制約もあり、全ての技術を網羅することは困難です。そこで、現場で実際に使用するAngularなどのフレームワークや、基礎研修では扱いきれなかった実践的な技術について、『由賀クラス』として補足研修を行っています。コードキャンプさんが築いた基礎の土台の上に、現場に必要な技術を段階的に教えていくイメージです」と説明する。
藤井氏は「株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部の技術基盤を長年支えてきたベテラン社員が、自身の経験や技術を次の世代に伝承していく。この新しい文化が生まれつつあることは、組織にとって非常に大きな意味があります。由賀さん、私(藤井氏)の若い頃の”師匠なんですよ”。その師匠が、新入社員の技術メンターを現在担っていただいています」と、組織文化としての後進育成の価値を強調する。
30%向上の実態:定量的・定性的評価
同社では開発力を毎期測定している。3ヶ月間の新人基礎研修後、さらに3ヶ月間の社内研修を経て、10月から開発グループに配属されOJTが始まる。通常、1人あたり1人月の作業を、新人の場合は0.4人月程度で計上し、少しずつ指導しながら進める。3ヶ月経過した1月からさらに負荷を上げていく形だ。
藤井氏によると「2024年度の新入社員は0.12人月上回る0.52人月、つまり約30%の生産性向上を達成してくれました。基礎力がしっかりしていたため、社内研修の進行も早く、その後のOJTでもスムーズに業務に取り組めました」という。
定性的な変化も大きい。藤井氏は「以前もスキルのある社員はいましたが、全体として底上げされたため、おおむね話が通じるようになりました。以前は基礎的なところでつまずくと一から説明する必要があり、開発の生産性が低下していましたが、24年度以降はそういったことがほとんどなくなりました。そのおかげで開発のペースを上げることができています」と語る。
由賀氏も「以前は体系的な知識を持たないまま現場に配属されていました。先輩社員について学ぶ形ではありますが、その先輩社員も全てを網羅的に把握しているわけではありません。そのため成長が遅くなりがちでした。今回の研修では体系だった内容と概念を習得してからウェブ開発に取り組めたため、立ち上がりが格段に早くなりました」と、以前との違いを明確に指摘している。
技術以外の社会人基礎力も向上
研修の成果は技術面だけにとどまらない。考える力、積極性、コミュニケーション力といった社会人基礎力も大きく向上している。
藤井氏は「率直に申し上げますと、この2年間の研修を受けた新人が、受講していない先輩よりも際立って成長しているという声も社内では聞かれます。積極性、質問の仕方、資格試験への挑戦意欲など、モチベーションが非常に高くなっています。3ヶ月間苦労している姿を見てきましたので、技術面だけでなく様々な面で鍛えられました」と評価する。
具体的には「先輩に対して臆することなく質問する、しっかり考えた上で質問してくる。こちらから『その経緯は?』と確認すると、きちんと自分の意見を述べてくれます。チームに配属された際、プロジェクトの一員として十分に活躍できると感じています」という。
三好氏も採用担当の立場から「研修を受講した社員たちは日頃からの挨拶など、社会人としての基礎的なスキルも身についたと感じています。これはコードキャンプさんの朝会や夕会などを通して、講師やサポートメンバーの方々が時間をかけて指導してくださったことが活きています」と語る。
藤井氏は「研修の中で、あえて発言する機会を数多く設けてくださいました。それが効いているんでしょうね。発言の機会がないまま育つと、どうしても消極的になる。この2年間研修を受けた社員は積極的に発言しますし、集団の中で意見を述べる基礎が身についています」と、研修設計の工夫が社会人基礎力の向上につながったと分析している。
実施担当者からのコメント
採用担当者から見た研修の価値
株式会社いよぎんコンピュータサービス 総務部・シニアアドバイザー 採用担当 三好 浩人氏
経営層も現場社員も、CodeCampさんに研修をお願いして非常に良かったというのが、偽りのない評価です。研修日程や研修内容を当社の都合に合わせていただけるというのが非常に大きかったと思います。他の研修事業者は、こちらが合わせるところが一般的だったのですが、CodeCampさんは可能な限り当社に合わせてくれました。他社の皆様も、まずはCodeCampさんに研修内容について相談するところから始めてください。
正直なところ、導入前は不安がありました。本当にここまで対応していただけるのかと。営業担当の方からは「対応可能です」という言葉をいただきましたが、実際に研修が始まり、講師の方々と最初に会話した時に、「これなら安心してお任せできる」と確信しました。
今後も毎年10名ずつ採用していきます。同様のプログラミング研修を継続していきますが、その際も必ず振り返りの時間を設けていただき、次年度へ当社の要望を取り入れていただいています。このプログラミング研修は、新社会人としてスタートするにふさわしい基礎研修であるということを、他の企業の方々にもお伝えしたいと思います。
現場責任者から見た継続の価値
株式会社いよぎんコンピュータサービス システム部・課長 情報処理安全確保支援士 藤井 志朗氏
私も社外でIT人材育成に課題を抱える企業の方とお話しする機会がありますが、2年間拝見してきて、コミュニケーションをとても大切にされているという印象を強く持っています。継続すればするほど、さらに良い環境が構築できると感じています。
体系的な基礎教育がもたらす持続的な成長サイクル
金融IT企業における37営業日の新入社員向け研修の導入事例から、約30%の生産性向上という定量的な成果と、基礎力の向上という定性的な成果が明らかになった。
成功の要因
- 1.「意地悪な研修」と3日間の立ち上げ研修:あえて困難を与えることで自ら考え行動する力を育成。
研修初期の3日間、現地での手厚いサポートにより信頼関係を構築し、その後の研修成果に寄与 - 2.若手育成サイクルの確立:2年目が1年目を指導する仕組みにより、指導する側・される側の双方が成長
- 3.ベテラン技術メンターによる実践指導:ICSの技術基盤を築いた経験豊富な社員による「由賀クラス」で、基礎研修と現場を接続
具体的な成果
- 1.生産性の向上:配属後3ヶ月で0.4人月から0.52人月へと約30%向上
- 2.成長速度の加速:共通のベースの確立により、全体の底上げと教育コストの削減
- 3.技術以外のスキル:積極性、コミュニケーション力、質問力の向上
- 4.継続的な改善:毎年の振り返りによる研修内容のブラッシュアップ
同社では、今後も毎年10名規模の新卒採用を継続し、研修を通じて育成した人材が次の世代を教える好循環を確立することで、組織全体のスキルレベルの底上げを図っていく方針だ。
「継続すればするほど、さらに良い環境ができる」という藤井氏の言葉通り、研修導入は単年度の施策ではなく、組織の成長を加速させる継続的な投資として位置づけられている。
編集後記
本研修に関しては、コードキャンプ株式会社が企画や実施の支援をさせていただきました。2年間、同社の研修に関わらせていただき、素晴らしい成果を目にしてきました。2年ともに、非常に充実した研修が実現できたと感じています。
その要因の一つとして挙げられるのは、いよぎんコンピュータサービスが「人の学び」に対して真摯に取り組み、外部パートナーとの協働を通じて最適な育成環境を追求し続けている点です。もう一つの要因として、新入社員の皆さんが非常に素直で積極的に研修に取り組んでいることも大きなポイントです。
このように、関係者全員が力を合わせて質の高い研修を作り上げており、同社には優秀な新入社員が揃っているという素晴らしい環境が生まれています。これをご覧いただいた方で同社に興味を持った方はぜひお問い合わせをしてほしい。
※採用情報は下記に記載
研修概要
株式会社いよぎんコンピュータサービスが導入しているIT研修
- 現地サポート3日間
- オンライン常駐
- チャットサポート
- 定期ワークショップ
株式会社いよぎんコンピュータサービスについて
URLhttps://www.iyoics.co.jp/
株式会社いよぎんコンピュータサービスのシステム部は、主に伊予銀行やグループ会社の基幹システム・情報系システムの開発、スマホアプリ(AGENTなど)の開発、API開発、ITインフラの設計・構築、および一般企業の業務システム開発やICT導入支援を行う部署です。システム開発だけでなく、ICT技術相談やコンサルティングも行い、組織のICT活用最適化や生産性向上を支援しています。
採用情報
本インタビューで伝えた業務のリアルと環境に共感いただけた方へ。 いよぎんコンピュータサービスでは、意欲のある方のご応募を歓迎しています。
| 会社名 | 株式会社いよぎんコンピュータサービス |
|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 稲田 保実 |
| 設立 | 1975年1月 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 所在地 | 〒790-0822 松山市高砂町2-2-5 伊予銀行事務センター内 |
| 取扱業務 | 伊予銀行やグループ会社、一般企業の業務システム開発、ICT導入支援、ITインフラ構築、ICT技術相談など |
