株式会社日立製作所は、AIと独自の未来シナリオのシミュレーション技術を活用し、自治体の政策検討を支援する取り組みを本格開始しました。
日立の因果連関モデルと約2万通りのシミュレーションで政策を支援
自治体が直面する少子高齢化、財政難、環境問題といった社会課題は相互に関連し合っており、限られた財源のなかで優先順位を定めることが年々難しくなっています。また、EBPM(Evidence Based Policy Making)の促進を内閣府が提唱するなか、自治体は政策選定の理由を議会・住民に対してエビデンスをもって説明することを求められています。
本取り組みではまず、自治体固有の政策検討要素を整理しました。人口や税収、環境や福祉などの指標と過去の施策KPIデータ、住民や職員のアンケートデータをもとに、因果連関モデルを構築しています。
このモデルをもとに約2万通りのシミュレーションを実施し、その結果をAIで分類・整理することによって、まちの未来と分岐点を可視化したシナリオを10個程度生成しました。「子育て支援に力を入れた場合」「産業振興を優先した場合」など、複数の政策を組み合わせた際のまちの姿を比較検討できるほか、「2030年が意思決定の重要な分岐点になる」といったターニングポイントも具体的に示せます。
日立独自のシミュレーション技術は、これまでさまざまな自治体やエネルギー・製造分野をはじめとする民間団体などで20件以上の活用実績を持ちます。
総合計画は、自治体において5年に1回程度作成される最上位計画であり、10〜20年後のまちの姿を見据えた施策の優先順位付けが求められる重要な文書です。従来の検討材料は人口推計など限られたデータにとどまる傾向があり、本取り組みはその課題に応えるものです。
日立のワークショップによる職員の主体的な政策参加を促進
日立は、一連のプロセスにおいて自治体職員が参加するワークショップを実施し、指標の選定や因果連関モデルの構築、シミュレーション結果の解釈に伴走型で取り組みます。関連する部署の職員を中心に、テーマに応じて住民も参加するかたちで進め、職員間の議論や合意形成を促進しました。
ワークショップでは、職員などの関係者とともに自治体固有の指標の選定や因果連関モデルの構築について議論し、続いてシナリオをもとにどの未来がより望ましいかを検討しながら、基本方針を選定しました。職員自らが、EBPM(Evidence Based Policy Making)を政策検討の現場で実践できる機会としても位置づけられています。あわせて、自治体の計画策定やDX支援に関するコンサルティングの知見を有するパートナー企業とも連携し、施策への落とし込みや組織内の合意形成を支援しました。
先行事例として長崎県壱岐市での取り組みを実施
先行してKPMGコンサルティング株式会社とともに本取り組みを実施した長崎県壱岐市においては、市がめざす未来像やそのために必要な政策の方向性の検討に向けた支援を行いました。その結果、現状の政策による人口減少抑制効果と、未来のまちの姿の分岐点が示されました。
壱岐市の人口は令和8年2月時点で約2.3万人です。国立社会保障・人口問題研究所の試算によれば、2050年には13,199人まで減少すると予測されました。
壱岐市 市長 篠原 一生氏は「2050年以降も人口2万人を維持する」ことを掲げてまちづくりを推進しており、今回の取り組みにより「政策による人口減少の抑制効果を確認できただけではなく、未来への要因や重要な局面といった具体的な知見を得られた」と述べています。篠原 一生氏はあわせて「政策立案におけるAI活用の大きな可能性を実感する結果となった」とコメントしました。
本取り組みの概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 提供元 | 株式会社日立製作所 |
| 取り組みの内容 | AIと未来シナリオのシミュレーション技術による自治体政策検討支援 |
| シミュレーション数 | 約2万通り |
| 生成シナリオ数 | 10個程度 |
| 対象計画 | 総合計画をはじめとする上位計画(5年に1回程度作成) |
| 活用実績 | 自治体・民間団体など20件以上 |
| 先行実施自治体 | 長崎県壱岐市(KPMGコンサルティング株式会社と共同) |
| 先行実施協力 | KPMGコンサルティング株式会社 |
| 今後の展開 | 他自治体への展開、人口減少対策・環境政策・財政計画など幅広い政策検討へ活用 |
| 関連Webページ | https://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/jichitai/index.html |
trends編集部の一言
約2万通りのシミュレーションから10個程度の未来シナリオを生成し、意思決定の分岐点まで可視化するアプローチは、自治体政策の文脈を超えたインパクトを持ちます。マーケティング業界の文脈に置き換えると、「どの施策が効くか」を事前に見極めるプロセスは業界横断で共通する課題であり、因果連関モデルを起点にシナリオを比較できる仕組みは、データ駆動の意思決定を組織ぐるみで実装しようとする動きの一例として読み取れます。
EBPMの要請が強まる流れは、企業の意思決定においても「データに基づく説明責任」として同様の圧力をもたらしました。ワークショップを通じて担当者が主体的にモデル構築に関わる設計は、単なるツール導入にとどまらず組織内の合意形成まで視野に入れた点で、業界全体としても注目すべき取り組みです。
References
- ^ PR TIMES. 「AIと未来シナリオのシミュレーション技術で、自治体の政策検討を支援する取り組みを本格開始 | 株式会社 日立製作所のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000586.000067590.html, (参照 26-05-30).
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