株式会社日立製作所は、フィジカルAI(現実世界を認識・理解し、自律的に判断して実際の行動に展開可能な能力を備えたAI)を活用した「最適運転ガイダンスシステム」を年内に販売開始すると発表しました。
最適運転ガイダンスシステムが対応するバッチ生産の属人的課題
化学品などのプロセス製造業では、高付加価値化に向けたバッチ生産(原料投入や製造、製品取出しの工程を1回毎に実施する、少量多品種に適した生産方法)が不可欠です。このバッチ生産では、設備内部状態が時々刻々と変化し、複雑な反応の制御が必要となるため、生産においてはオペレーターの経験や勘に強く依存してきました。結果として、品質や生産性のばらつきが生じるだけではなく、計器の指示値に基づいてオペレーターが内部状態を予測するという属人的な負担が、現場の大きな課題となっていました。
「最適運転ガイダンスシステム」は、こうした課題に対応するために開発されたシステムです。高付加価値の化学品を少量多品種で製造するバッチ生産のプロセスを、フィジカルAIでサイバー空間に再現・分析します。その上で、DCS(Distributed Control System:分散制御システム)やPLC(Programmable Logic Controller:機械や設備の動作をプログラムで制御するための装置)の最適な制御方法をオペレーターに提示する設計です。
最適運転ガイダンスシステムによる状態可視化と操作ガイダンス
本システムは、生産工程において重要なプラントの反応設備(原料を使い、製品を反応によって製造するための、プラントの設備)を対象としています。設備内部で反応中の素材の状態を可視化し、特定の制御が素材に与える影響を予測することによって、温度や圧力、流量などの操作ガイダンスをオペレーターに提示します。
本システムを活用することによって、オペレーターの技量・経験に左右されにくい運転が可能です。製品品質の安定化および製造プロセス全体の生産効率の向上に貢献するとともに、オペレーターは将来変化に対する予測を踏まえ、先を見越した操作を行えるようになります。本システムの実現には、インダストリー分野のドメインナレッジをAIに組み込む技術と、デジタライズドアセットから得た過去の運転データを用いて強化学習(大量の入出力データに基づきフィジカルAIが自分でルールを学び、最適な判断を行わせる技術)する技術を組み合わせました。
最適運転ガイダンスシステムを支える2つのモデル
本システムは、以下の2つのモデルを組み合わせて実現しました。
- ドメインナレッジとAIを融合したプロセスモデル
- 効率的に最適な制御方法を提示可能な制御モデル
プロセスモデルでは、エネルギーや物質の出入りを日立の化学・化学工学的専門知識に基づいた理論式で計算します。設備の経年劣化など定式化が難しい部分にはAIを活用して予測し、理論式に基づく内部の計算結果を可視化することに成功しました。
現場の知見をAIに組み込む設計により、日立が構築してきた従来のAI技術よりも少ないデータで精度を保った予測ができることも確認されています。また、理論式を汎用的に適用するための仕組みを構築したことによって、モデル構築時間の短縮が期待され、提供までのリードタイムの改善にも寄与するものです。
制御モデルでは、過去のバッチ生産における運転データを強化学習する日立独自の技術を採用しました。少ないエラー回数・高い製品品質・短い運転時間といった、運転結果が良好だった条件に基づく設備設定の候補をオペレーターに提示します。独自のクラスタリング技術を用いて状態を定義し、その時系列変化を強化学習させることによって、日立が過去に検討してきた強化学習の手法と比較して、比較的短時間での学習・予測が可能であることを確認しました。
「最適運転ガイダンスシステム」概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 開発元 | 株式会社日立製作所 |
| システム名 | 「最適運転ガイダンスシステム」 |
| カテゴリ | フィジカルAI / 現場生産運転支援 |
| 販売時期 | 年内 |
| 対象産業 | 化学品のプロセス製造業 |
| 提供ラインアップ | HMAX Industry |
| 提示対象 | DCS・PLCの最適な制御方法 |
| HMAX Industry注力組織 | コネクティブインダストリーズ(CI)セクター インダストリアルソリューションビジネスユニット |
| 売上収益 | 10兆5,867億円(2025年度(2026年3月期)) |
| 連結子会社数 | 606社(2026年3月末時点) |
| 従業員数 | 約29万人(全世界) |
trends編集部の一言
現場オペレーターの「経験や勘」に依存してきた生産管理を、AIが可視化・ガイダンス化するという発想は、製造業以外の文脈でも示唆が大きいと言えます。業界全体としては、こうした暗黙知のデジタル化が生産性格差を生む局面に差し掛かりつつあるのではないでしょうか。
「ドメインナレッジをAIに組み込む」という設計思想は、汎用LLMとは異なるアプローチです。少ないデータで精度を保てる点や理論式に基づく計算結果を可視化できる点は、AIへの信頼性確保が求められる現場における事例として、業界全体の導入プロセス設計にも示唆を与える動向として注目されます。
References
- ^ PR TIMES. 「日立、熟練オペレーターの技能を取り込んだフィジカルAIで現場生産運転を支援する「最適運転ガイダンスシステム」をHMAX Industryのラインアップとして年内に販売開始 | 株式会社 日立製作所のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000141666.html, (参照 26-07-08).
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