DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、デジタル技術を活用してこれまでの業務プロセスやビジネスモデルを変革・変化(トランスフォーメーション)させることです。
具体的にはAIやビッグデータなどの最新デジタル技術を活用し、業務フローを再構築したり新規サービスを創出したりすることが挙げられます。
上記の説明でDXについてなんとなく理解できるものの、下記のような疑問が残っている方もいるのではないでしょうか。
- なぜDXが必要なのかわからない
- DX化とIT化って何が違うの?
- DXにかける予算が下りない
- DXの実例がわからないためイメージが沸かない
本ページでは上記のギモンや悩みを中心に解決します。
DXとはどういう意味?経済産業省の定義を交えて解説
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、企業や組織がデジタル技術を活用して業務の効率化や新たな価値の創出を目指すプロセスを指します。経済産業省が公開している「デジタルガバナンス・コード」ではDXについて下記のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード 2.0」
具体的にはアナログな業務をデジタル化し、データを活用してビジネスモデルや業務プロセスを革新することが目的です。
なぜDXが必要とされているのか?
いま日本でDXが必要とされてるいる理由は「グローバル競争での生存競争」と「2025年の崖への対応」です。各内容について詳しく解説します。
グローバル競争での生存競争
現代のビジネスにおいて、デジタル技術の活用はスタンダードなものとなっています。デジタル技術の進化が速いこともあり、今後も新しいテクノロジーやビジネスモデルが登場するでしょう。
変化の速いデジタル社会で生き残るためにはDXを進めて組織をデジタル化し、効率的で柔軟性のあるビジネスモデルに再構築することが不可欠です。
DXによって市場の変動に迅速に対応し、顧客の新たなニーズを満たすことが可能。DXの推進を疎かにすると競争で不利になり、機会損失が生じる可能性があります。
実際デジタル技術の活用によって成功している、いわゆる"デジタルの巨人"と呼ばれるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の時価総額は、日本株全体を上回るほどです。
- GAFAの時価総額:7兆500億ドル
- 日本株全体:6兆8600億ドル
これ以上グローバル競争で遅れを取らないという意味でも、どの企業もDXの取り組みは必要になってくるはずです。
2025年の崖への対応
DX推進が活発になった理由の1つには、経済産業省が発表した『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』の存在が大きいでしょう。
このレポートの重要なポイントだけを抜き出すと、
- グローバル市場の変化に対応できず、世界とのIT競争に遅れを取る
- IT予算の9割以上がシステム維持管理費に割かれている
- 老朽化したシステムトラブルやデータ消失リスクが高まる
このことからもし日本企業のDXが進まなければ、2025年以降には最大で12兆円の経済損失の可能性があると予測しています。
また2025年の崖は、経営者だけの問題ではありません。
社員はもちろん企業の未来も左右されるだけに、DXは1つのプロジェクトとして企業全体で取り組んでいくべき課題となります。
経済産業省
日本が抱えるDXの課題
日本が抱えるDXの主な課題は下記の通りです。
- レガシーシステムの存在
- リスク回避志向と変革への抵抗
- DX推進をリードする人材不足
- 経営層のDXに関する理解と意思決定不足
- 資金調達の制約
レガシーシステムの存在
レガシーシステムとは、長期間にわたり使用されている古いコンピュータシステムやソフトウェアのことです。多くの日本企業が業務プロセスの中核としてレガシーシステムを使用しており、新しいデジタル技術の導入を妨げる要因となっています。
レガシーシステムを維持しながらDXを推進するには、古いシステムを新しいものに置き換えるか今のシステムを最新の状態にアップデートすることが重要です。
しかしこれには大規模な投資とリスクが伴い、多くの企業がその対応に躊躇しているのが現状です。こうした状況のため、データの活用や業務効率の向上を図るためのデジタル化が進みにくい状況なのが課題です。
DXによる組織変革への抵抗
日本の企業文化はリスク回避に強く焦点を当てる傾向があります。DX化やIT化などの変化に対して慎重になる傾向があり、変革が進みにくい体質なのも課題のひとつです。
特にデジタル技術やAIの活用によるビジネスプロセスの改革は、失敗のリスクを伴うため従来の方法や既存のシステムに依存し続ける傾向にあります。しかしデジタル社会において競争力を維持するためには、このような変革が必要不可欠です。
企業がこの課題を克服してDXを推進するためには、経営層のリーダーシップと組織全体の協力が必要です。
DX推進をリードする人材不足
DXを推進するためにはデジタル技術やAI、データ分析に精通した高度なスキルを持つ人材が必要です。しかしこれらの分野の人材が不足しており、特に中小企業ではその影響が顕著です。
人材不足は企業が新しい技術を導入し、競争力を向上させるための大きな障壁となっています。また、デジタル人材の育成が遅れていることもあり、DXの推進が進まない原因のひとつです。
この問題を解決するためには教育機関や企業が連携し、デジタル人材の育成プログラムを強化する必要があります。
経営層のDXに関する理解と意思決定不足
DX推進を成功させるには経営層がDXプロジェクトへ積極的であることと、明確なビジョンが不可欠です。しかし日本の企業では、経営層がDXの重要性を十分に理解していないケースが見られます。
トッでの意思決定が不足しているとDXの取り組みが中途半端なものとなり、データの活用や業務効率の向上、顧客体験の改善といった目的を十分に達成できません。
このように、経営層がDXに関して積極的でないという課題を抱えている企業も多数あります。
資金調達の制約
DXの推進には新しいシステムの導入や、デジタル技術への投資が必要です。しかし多くの企業で資金調達が難航しており、企業が必要なリソースを確保してDXを推進するための大きな制約となっています。
資金調達がうまくいかない理由として、初期投資が大きいことやDX推進による費用対効果が不明確だということが挙げられます。
資金調達できずにDXが遅れると、市場での競争に遅れを取るリスクが高まります。資金調達の問題を解決するためには、DXによる効果を経営者層へ理解してもらうような働きかけや、政府や自治体が提供している補助金・助成金を活用して投資リスクを低減することが有効です。
IT化とDX化の違い
IT化DX化はいずれもデジタル技術を活用する点で共通していますが、その目的や取り組みの範囲には明確な違いがあります。
IT化
IT化は主に業務プロセスの効率化やコスト削減を目的として、既存の業務システムをデジタル技術によって改善する取り組みです。
たとえば紙の書類をデジタル化して業務のスピードを向上させたり、手作業を自動化して業務効率を上げることがIT化の典型例です。
IT化は特定の業務やプロセスに焦点を当てているため、導入効果が限定的であることが多いです。
DX化
DX化は単なる業務効率化にとどまらず、企業全体のビジネスモデルや組織文化を根本的に変革して競争力を向上させることが目指です。
DX化ではデータの活用やAIなどの先進技術を駆使して新しい価値を創出し、顧客ニーズに対応する柔軟なビジネスモデルを構築します。
たとえばクラウド技術を活用して、従来の製品販売モデルをサービス提供モデルに転換することが挙げられます。
このようにIT化は部分的な改善を目指すのに対し、DX化は全社的な変革を目指す点で大きく異なります。
DXとの違いに関する記事一覧
DXを実施する際のポイント
DXを実施する際のポイントは下記の通りです。
- デジタルを前提とした目的の策定
- DX人材の育成
- 予算の確保
各内容について詳し解説します。
DXを実施する目的の策定
DXを実施する目的を設定することで、具体的にやるべきことを選定しやすくなります。たとえば既存の単純業務を自動化したいという目的や、リスク管理を強化したいという目的などが挙げられます。
単純業務の効率化であればRPAツールや業務管理ツールの導入や、リスク管理の強化であれば既存システムの見直しなどが検討されるでしょう。
身の回りの業務効率化や自動化から始めることで社員の生産性が上がり、DXの利点を具体的に感じることができます。
DXと聞くと大きな変革をイメージする方もいるため、まずは小さな変革から始めることがおすすめです。
DX人材の育成
DXの成功には専門的な知識が必要不可欠です。外部からの委託もひとつの手段ですが、企業が長期的な視点で競争力を維持するためには社内でのDX人材育成が重要です。
社員をDX人材として育成する方法は下記の通りです。
- 内部の教育プログラム強化
- 企業が提供しているDX研修の導入
- E-ラーニングを導入して従業員のデジタルスキルを向上させるための継続的なトレーニング
なかでも企業が提供しているDX研修は、基礎知識から実践的なスキルまで体系的に学べるのが特徴です。
たとえばコードキャンプが提供しているDX人材育成研修では、業種別の課題や実際のシステム環境を再現した擬似的なプロジェクト型学習を採用。DXの基礎知識から具体的な手段まで体系的に習得できます。
E-ラーニングで実践的なスキルが身につくのか不安な場合や、社内の教育体制が整っていない企業におすすめです。
DXの研修に関する記事一覧
DXにかける予算の確保
DXプロジェクトには技術の導入や人材育成、必要なシステムとインフラのアップグレードなど多方面にわたる投資が必要です。これらには適切な予算配分が必須であり、効果的な予算計画を立てることでDXの目標を達成しROIを最大化できます。
DXの導入に伴う費用が高額になることやDXによる費用対効果が見えづらいことから、導入に必要な資金が割り当てられないこともあります。
資金調達の難しさを軽減するためには、政府や地方自治体が提供する補助金や助成金を活用することが効果的です。これらの支援を利用することでDXの推進に必要な費用負担を軽減し、長期的なビジネス変革をサポートできます。
DXに活用できる補助金・助成金の記事一覧
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・自治体がDXの促進に活用できる補助金や制度一覧|デジタル基盤改革支援補助金やふるさと納税が有効
・事業再構築補助金はDXで活用できるのか?特徴や利用条件、具体的な利用手順について紹介
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・躍進的な事業推進のための設備投資支援はDXで活用できるのか?特徴や利用条件、具体的な利用手順について紹介
DXのわかりやすい例
ECサイト(オンラインショッピング)
小売業界におけるDXは、主にECサイトへの移行に焦点を当てています。
ECサイトを使うことで広い顧客層へのアクセスを提供し、24時間いつでも購入可能な環境を実現できます。
たとえば、Amazonや楽天のような企業は、実店舗を持たずにオンライン上でのみ商品を販売しています。
ECサイトの登場により小売業のデジタル化は大きく進展しました。
クラウドベースのオフィスツール
現代の職場におけるデジタル変革の一環として、クラウドベースのオフィスツールの採用が進んでいます。
クラウドツールを使用することでどこからでもアクセス可能となり、チーム間のコラボレーションが容易になります。
たとえば、GoogleドライブやMicrosoft 365のようなサービスは文書やスプレッドシートをオンラインで共有し、編集できるのが特徴。
クラウドで使えるオフィスツールの登場は、オフィス作業のDXに役立っています。
クラウドベースのオフィスツール
スマートファクトリー(スマート工場)とは、先進的なネットワーク技術を活用した工場のことです。
これにより生産効率の向上やコスト削減、品質管理が実現します。
インターネットに接続されたロボットやAIを活用した自動化された生産ラインは、製造プロセスの効率化に大きく寄与しています。
モバイルバンキングとフィンテック
金融業界においてモバイルバンキングとフィンテックは、DXの重要な側面を担っています。
モバイルバンキングは顧客がいつでもどこでも金融サービスを利用できるようにするための技術。
スマホアプリを通じて行う送金や口座管理は、金融業界におけるデジタル化の進展を示す好例です。
フィンテックは金融と技術を組み合わせたサービスのことであり、顧客にとってより便利で使いやすい金融サービスを提供することを目的としています。
これらの技術の導入によって顧客はいつでもどこでも金融サービスを利用できるようになり、サービスの利便性が大幅に向上しました。
遠隔医療サービス
医療業界におけるDXは、遠隔医療サービスの導入を中心に展開されています。
その結果、患者は地理的な制約に関係なく医療サービスにアクセスできるのが特徴です。
たとえば、ビデオ通話を通じたオンライン診療や健康相談が可能となり、医療アクセスの拡大とサービスの効率化が図られています。
ビッグデータと分析
ビッグデータと分析の活用はあらゆる業界におけるDXの重要な側面です。
大量のデータを収集・分析することで、よりデータ駆動型の意思決定が可能になります。
これは顧客の行動を分析し、パーソナライズされた商品やサービスを提供することによって特に顕著です。
ビッグデータの利用によって企業は市場の動向をより的確に把握し、効率的な戦略を立てる手段として有効です。
自動化された顧客サービス
チャットボットやAIアシスタントの導入により、顧客からの問い合わせに対する迅速かつ効率的な対応が可能です。
企業は顧客満足度を高めつつ、オペレーションコストの削減を実現できます。
自動化された顧客サービスは時間とリソースを最大限に活用するための鍵となり、特にサービス業界におけるDXの一例となります。
Eラーニングプラットフォーム
教育業界におけるDXは、Eラーニングプラットフォームの導入という形で進行しています。
学習者は場所を選ばずに教育を受けることができ、学習機会が大幅に拡大します。
オンラインコースやバーチャルクラスルームを通じた教育は、学習者に柔軟性とアクセスの容易さを提供します。
これは、教育のデジタル化がもたらす重要な変化のひとつです。
DXの事例
製造・販売業:センターCRMソフトの導入で作業時間が大幅に削減
音響機器の開発・製造・販売を手掛けている株式会社オーディオテクニカは、マルチチャネル対応の顧客応対管理システム「inspirX」を導入し、作業時間の短縮に成功しました。[1]
導入後の効果として「電話、メールを合わせて2000件/月規模の問い合わせ対応が効率化された」、「対応履歴を内容ベースで検索することが可能になり、情報展開がスムーズになった」という効果が見られているようです。
株式会社小松製作所:DXスマートコンストラクションの導入で工期短縮とコスト削減を実現
株式会社小松製作所が導入したデジタルツイン技術は、建設現場を正確にデジタルで再現することで計画の精度を高め、不具合を早期に発見して修正することが可能になりました。[2]
この結果施工の精度が向上し、工期の短縮とコストの削減が実現しています。さらにICT建機を活用することで測量や設計の作業時間が大幅に削減され、全体的なプロジェクトの効率が向上しました。
DXの事例に関する記事一覧
References
- ^ PRTimes. 「【導入事例公開】オーディオテクニカがコールセンターCRMソフト「inspirX」を導入」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000088.000000699.html, (参照 2024-05-02).
- ^ 経済産業省. 「DX銘柄2023」. https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dxstockreport-2023.pdf, (参照 2024-05-02).