エリクソンは、ベースバンドや無線機にキャリアグレードのAIモデルを組み込むソフトウェア・サブスクリプション「AI in RAN」を発表しました。
AI in RANによるネットワーク性能の向上
「AI in RAN」は、無線ネットワークの適切な箇所に適切なAIモデルを配置できるように設計されました。エリクソンシリコンがエネルギー効率に優れたAI推論を支え、活用するのは最新世代のRAN Computeです。クラウドRANソフトウェアの可搬性により、パートナー企業のプラットフォーム全体へのAI機能展開も可能です。
商用ネットワークでの実証データは、複数の指標で具体的な改善を示しています。ダウンリンクスループットの最大20%向上、周波数利用効率の最大10%改善に加え、高トラフィックユーザーへの対応数を最大2倍に拡大します。90~95%のカバレッジ予測精度を支援するとともに、ユーザー位置推定精度を最大5倍に高めることが可能です。
導入されるソフトウェア機能には次のものが含まれます。
- AIネイティブのリンクアダプテーション用スケジューラー
- AIベースのマクロポジショニング
- AI制御のビームフォーミング
- AIベースのマルチレイヤー協調
- 「AI in RAN」向け拡張オブザーバビリティ(可観測性)
- パフォーマンス管理イベントスキーマファイル
初期機能は、2026年第2四半期に提供開始され、同年後半にさらなる拡張が予定されています。専用設計のRANとクラウドRAN両方のプラットフォームでEricsson 5G Advancedと連携し、エリクソンの「AI for Networks」ビジョンを具現化する製品です。
AI in RANのエージェンティックAI対応と通信事業者パートナーの評価
「AI in RAN」が導入する3つの中核機能のうち、特に注目されるのがエージェンティックAI(Agentic AI)への対応です。高度なRANの自動化とネットワーク運用を実現するもので、エリクソンのネットワーク戦略・製品管理部門責任者のマーテン・ラーナー(Mårten Lerner)氏は、AIネイティブなネットワークに向けた大きな前進と位置づけています。
ソフトバンク株式会社の常務執行役員 兼 CNOの大矢晃之氏は、無線パフォーマンスや周波数利用効率のリアルタイム最適化への期待を示しました。フィジカルAIのユースケースをはじめとする新しいAI駆動型サービスの社会実装を加速させる基盤になると述べています。
北米の通信事業者からも評価の声が相次いでいる状況です。Bellのブルース・ディーン(Bruce Dean)氏は、AIをRANに直接統合することがネットワークのインテリジェンスと効率性を高める上で重要な一歩だと表明しました。RogersのCTOであるマーク・ケネディ(Mark Kennedy)氏は、リアルタイムでのネットワークパフォーマンス最適化とエネルギー消費削減への貢献を強調しています。
SK テレコムのユ・タッキ(Yu Takki)氏は、AI-RANを通じたAIネイティブな6Gの基盤づくりへの貢献を目指すとし、研究・実環境での検証やソフトウェア、イノベーションを組み合わせるアプローチを説明しました。Mobile Experts社のジョー・マデン(Joe Madden)氏は、ソフトウェアのアップグレードにより既存の5Gネットワークから追加容量や高精度な位置情報サービスを引き出せると指摘し、通信事業者にとって近年で最も投資対効果の高い取り組みとなる可能性があると述べています。
AI in RANの概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 提供企業 | エリクソン |
| 製品名 | AI in RAN |
| カテゴリ | ソフトウェア・サブスクリプション |
| 初期機能提供開始 | 2026年第2四半期 |
| 主な性能指標 | ダウンリンクスループット最大20%向上 周波数利用効率最大10%改善 高トラフィックユーザー対応数最大2倍 カバレッジ予測精度90~95% ユーザー位置推定精度最大5倍向上 |
| 連携プラットフォーム | Ericsson 5G Advanced(専用設計RAN・クラウドRAN) |
| ハードウェア要件 | 追加ハードウェア不要 |
| 公式サイト | www.ericsson.com |
trends編集部の一言
世界15件以上の商用ネットワーク導入およびトライアルでダウンリンクスループットを最大20%向上させたという数値は、実験段階ではなく実運用レベルの話であり、インパクトがあります。通信インフラ業界全体としては、AIをネットワーク機器に直接組み込む「AIネイティブ化」の流れが加速しており、ソフトウェアだけで既存資産の性能を引き上げるアプローチは、設備投資サイクルの長い通信業界における主要な差別化戦略として定着しつつあるのではないでしょうか。
追加ハードウェアが不要という設計は、導入コストと意思決定のハードルを下げる点が特徴です。マーケティング業界の文脈に置き換えると、新機能をソフトウェアアップデートだけで既存プラットフォームに乗せる手法はMAツールやCDPの拡張戦略とも共通しており、「買い替えではなくアップグレードで価値を拡張する」モデルは業界横断で広がりを見せているテーマです。
エージェンティックAI(Agentic AI)への対応という観点も、AIネットワーク運用領域では重要な指標となっています。「自律的に動くAI」がネットワーク運用に組み込まれていく流れは、マーケティング自動化の進展とも方向性が重なっており、通信業界を超えた技術トレンドとして広く波及していく動きと捉えられます。
References
- ^ PR TIMES. 「よりスマートなRANへ―エリクソン、AIを最適な場所に組み込む新ソフトウェアを発表 | エリクソン・ジャパン株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000114.000010141.html, (参照 26-06-17).
