オール・イングランド・ローンテニス・クラブとIBMは2026年6月22日(現地時間)、2026年のウィンブルドン選手権に向けた新たに強化されたデジタル・ファン機能を発表しました。
watsonxを基盤に新機能「Key Moments」と強化版「Match Chat」を導入
新たに導入される「Key Moments」は、リアルタイムの勝利確率予測機能「Likelihood to Win(勝利の可能性)」を拡張したものです。「Likelihood to Win(勝利の可能性)」は、現在および過去の統計データと専門家の見解、試合の勢いをAIが総合的に分析します。
各選手の勝利確率を継続的に算出する仕組みです。「Key Moments」はこれに加えて、試合の流れに影響を与えるプレーがどのようなものか、またその理由について、より豊富で分かりやすい情報を提供します。
「Key Moments」は男子および女子シングルスの各試合で利用可能です。「Likelihood to Win(勝利の可能性)」による勝利確率モデルを補完し、AIによる分析の根拠をより明確にすることによって、試合を特徴づける流れの変化の理解を深めます。
強化された「Match Chat」は、試合中にファンに寄り添う対話型のAIアシスタントです。統計データを探したり複数の画面を行き来したりすることなく、「ここまでの試合展開は?」といった自然言語による自由な質問を通じて、必要な情報を得るできます。Match Chatは会話形式で即時に回答を提供します。
今回の機能強化により、一部の回答では文脈理解を深めるために関連する写真や動画も表示されるようになりました。「Match Chat」は、ライブの試合データ、分析情報、過去のパフォーマンス情報を拡張したデータ・セットをもとに、会話形式で回答を提供します。
IBMのAIエージェント製品であるwatsonx Orchestrateを基盤に構築されており、ウィンブルドンの編集スタイルやテニス特有の表現に基づいて学習された複数のAIエージェントと、用途に応じたモデル群を活用した構成です。これらの機能は、ウィンブルドンのデジタル・プラットフォームの刷新を通じて実現されています。
IBM Bobを活用したデジタル・プラットフォーム刷新
今回のファン向け機能は、ウィンブルドンのデジタル・プラットフォームの全面刷新によって生まれました。刷新にあたっては、ファンや選手、放送関係者、メディアなど多様な関係者がデジタル・エコシステムにどのように関与しているかを分析・調査しました。その結果をもとに、ユーザー・ジャーニーの最適化とパーソナライズされた体験の提供を目指した設計が行われています。
主な成果として、ウィンブルドンのコンテンツ・アーカイブが新しいアーキテクチャーへ移行されました。記事、動画、写真など15,000点以上のデジタル資産と、それらを結び付けるメタデータの関係性が統合されています。
IBMのAI開発支援パートナー「IBM Bob」は、ナレッジ・グラフの構築と、コンテンツ構造を新プラットフォーム向けに再構成するAI駆動ワークフローの開発に活用されました。主な成果は次の通りです。
- 従来は4〜5人のチームが数カ月を要したマッピング作業を1人のエンジニアが約4週間で完了
- 15,000件のコンテンツ資産の抽出をわずか47分で実現
- ナレッジ・グラフ構築と、新プラットフォーム向けAI駆動ワークフローの開発
オール・イングランド・ローンテニス・クラブのマーケティング&コマーシャル・ディレクターであるウサマ・アルカサブ氏は、「IBMとのテクノロジー・パートナーシップにより、最先端のイノベーションを活用しながら、世界中のオーディエンスとのエンゲージメントをさらに深め、情報提供の価値向上と、より魅力的な観戦体験の実現を推進しています」と述べています。
IBMのマーケティング&コミュニケーションズ担当シニアバイスプレジデントであるジョナサン・アダシェク氏は、「IBM watsonxおよびIBM Bobを活用したプラットフォームのモダナイゼーションと新たなファン体験は、AIがエンゲージメントの強化に加え、イノベーションの加速と業務効率の向上を実現できることを示しています」と語っています。
IBMとウィンブルドン選手権2026年大会の概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年6月22日(現地時間) |
| 発表元 | オール・イングランド・ローンテニス・クラブとIBM |
| 大会期間 | 2026年6月29日(月)から7月12日(日) |
| AIプラットフォーム | watsonx(IBM) |
| 新機能 | Key Moments、強化版Match Chat |
| 既存機能 | Likelihood to Win(勝利の可能性)、IBM Slamtracker |
| 提供媒体 | Wimbledon公式アプリ、wimbledon.com |
| パートナーシップ期間 | 35年以上 |
| 2025年エンゲージメント | 全プラットフォームで前年同期比16%増加 |
| myWIMBLEDON登録者数 | 過去1年間で39%増加 |
| IBMとウィンブルドンの歩み | 1995年:公式ウェブサイト開設/2009年:モバイル・アプリの初展開/2017年:AIを活用した高度なソリューションを初導入 |
| 商標情報 | ibm.com/trademark |
trends編集部の一言
4〜5人のチームが数カ月かかっていた作業を1人のエンジニアが約4週間で完了し、15,000件のコンテンツ資産の抽出がわずか47分で実現されました。この数字が示す工数削減のインパクトは、業種を問わず注目に値します。
業界全体としては、大規模なコンテンツ・アーカイブを持つメディアやブランドがデジタル資産のモダナイゼーションに取り組む動きが加速してきました。今回の事例は、その具体的な手法として、業界横断で参照される取り組みと位置づけられます。
マーケティング業界の文脈に置き換えると、AI駆動のワークフローでナレッジ・グラフを構築しながらコンテンツ構造を再設計するアプローチは、コンテンツ資産の大規模移行というボトルネックへの回答として、業界横断で示唆を含むものです。
「Key Moments」や「Match Chat」のようなリアルタイムのAIファン体験機能は、スポーツの枠を超えたコンテンツ・マーケティング領域の今後の動向としても注視したいポイントです。
References
- ^ PR TIMES. 「ウィンブルドンとIBM、2026年大会に向け、AIを活用した新たなファン体験と刷新されたデジタル・プラットフォームを発表 | 日本アイ・ビー・エム株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000723.000046783.html, (参照 26-06-26).
