株式会社Finatextと株式会社ナウキャストは、メディケア生命保険株式会社にて生成AIを活用した給付金支払査定業務の実証実験(PoC)を実施しました。
メディケア生命が直面する査定業務の高負荷と自動化の難しさ
生命保険業界では、保険契約件数および給付金支払件数の増加に伴い、支払査定業務の負荷が年々高まっています。査定業務は、約款の解釈や医療知識、過去の査定事例を総合した専門的判断を要します。人材の育成には長い期間を必要とする業務です。
支払査定は、非定型な書類の読み取りから約款に基づく判断までを一貫して求められる、専門性の高い業務です。近年の生成AIやマルチモーダルAIの技術進展により、従来は自動化が困難だった領域に適用できる可能性が生まれています。こうした背景のもと、メディケア生命保険株式会社と株式会社Finatext、株式会社ナウキャストの3社は、生成AIを活用した給付金支払査定業務の実証実験(PoC)を開始しました。
Finatextとナウキャストによる実証実験の概要と技術的アプローチ
本PoCは、2025年9月〜2026年2月の期間にわたり、2フェーズで実施されています。フェーズの内容は以下の通りです。
- Phase1(2025年9月):業務適用可能性の初期検証(小規模プロトタイプ・定性評価)
- Phase2(2025年12月~2026年2月):投資対効果の定量的検証(精度検証・業務フロー整備・出力イメージ作成)
Phase2では、実際の査定業務で頻出する代表的なケースのうち、特に専門的な判断を要する難易度の高いものが対象です。「請求書類の読み取り」から「支払可否判断・給付金額の算出」までの一連の査定処理をAIに実行させ、精度や安定性、業務への組み込み可能性を検証しました。
Phase2では、以下の3つの技術的アプローチを採用しました。採用した技術の詳細は以下の通りです。
- Agentic RAG:AIエージェントが約款・マニュアル等の必要情報を自律的に探索・参照する仕組み
- 長期記憶の活用:過去の査定事例をAIが要約・記録し、類似ケース査定時に活用
- マルチモーダルモデルの最適化:書類の種類やタスクの特性に応じて最適なAIモデルを使い分ける構成
Finatextとナウキャストが実証したAI査定正答率90%以上と業務工数削減
専門的な判断を要する難易度の高いケースを含む検証において、AIの査定正答率は90%以上を記録しました。
Agentic RAGによる自律的な情報探索と、長期記憶による過去事例の活用により、同一条件での繰り返し検証においてばらつきは生じませんでした。出力の安定性と精度の継続的な向上も確認されています。
書類読み取り(AI-OCR)の精度については、診断書や診療明細書、領収書、請求書類を対象に検証しました。マルチモーダルモデルの最適化により、約90%の精度で査定に必要な情報を抽出しています。読み取りが困難だった箇所は、印鑑・マスキング等で文字が隠れている部分や記号・囲み文字などの表記に限られており、通常の文字・数字に対しては手書きを含め100%に近い精度を実現しました。
本PoCの検証結果をもとに、試算された導入効果は以下の通りです。
- 入力作業工数:約1/3に削減(AI-OCRによる請求書類の自動読み取り・データ入力)
- 査定工数:担当者による査定案件で約40%削減(AIによる事前査定・確認ポイントの抽出)
定量的な工数削減に加え、査定者の早期育成効果も見込まれています。熟練者の判断プロセスをAIが再現することによって、経験の浅い担当者でも難易度の高い支払査定業務を高品質に遂行できるようになるとされています。
AIが査定根拠や参照すべき約款条項を提示することによって、新人査定者の早期戦力化を支援する効果も期待されています。難易度の高い専門業務においてAIが90%以上の正答率を記録した点は、保険業界に限らず注目に値するでしょう。
Finatextとナウキャストによる実証実験(PoC)の概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 実施内容 | 生成AIを活用した給付金支払査定業務の実証実験(PoC) |
| 実施期間 | 2025年9月〜2026年2月 |
| 実施主体 | 株式会社Finatext、株式会社ナウキャスト、メディケア生命保険株式会社 |
| AI査定正答率 | 90%以上 |
| AI-OCR精度 | 約90%(通常文字・数字は100%に近い) |
| 入力作業工数削減 | 約1/3 |
| 査定工数削減 | 約40% |
| 主要技術 | Agentic RAG、長期記憶の活用、マルチモーダルモデルの最適化、AI-OCR |
| Finatext設立 | 2018年12月 |
| ナウキャスト設立 | 2015年2月 |
| メディケア生命設立 | 2009年10月 |
| Finatext公式サイト | https://finatext.com/fn |
| ナウキャスト公式サイト | https://nowcast.co.jp/ |
| メディケア生命公式サイト | https://www.medicarelife.com/ |
trends編集部の一言
難易度の高い査定ケースでAIの正答率が90%以上を記録した点は、保険業界に限らず注目に値します。他業界でも、ベテランの判断や過去事例の活用が求められる業務は多く、Agentic RAGと長期記憶を組み合わせて「蓄積された知見を自律的に引き出す」という設計には、業界を超えた可能性があるのではないでしょうか。
保険業界全体としては、専門判断領域への生成AI適用が実証フェーズから運用検討段階へ着実に進んできました。
「ツールを試験導入した段階」と「実際の業務フローに組み込んで安定稼働させる段階」の間には、想像以上に大きなギャップが存在します。本PoCがPhase1の定性評価からPhase2の定量検証へと段階的に設計を進めたアプローチは、そのギャップを埋める手法として業界横断で参照しうる事例です。マーケティング業界の文脈に置き換えると、生成AIの業務組み込みにおける段階的検証設計を重視する流れが強まっていることを示す動きと捉えられます。
References
- ^ PR TIMES. 「Finatextとナウキャスト、メディケア生命にて生成AIを活用した給付金支払査定業務の実証実験(PoC)を実施 | 株式会社Finatextホールディングスのプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000607.000012138.html, (参照 26-05-30).
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