NTT株式会社は、近畿大学病院 腫瘍内科や中外製薬株式会社、株式会社NTTデータとともに、治験候補患者抽出の精度および抽出プロセスの効率を検証する4者共同研究を開始しました。
治験候補患者抽出の課題と4者共同研究の背景
新薬の臨床開発において、治験開始までの期間および治験参加者の組み入れ期間は上市時期に大きく影響します。なかでも治験候補患者の抽出は、治験実施計画書に定められた適格基準をもとに医師や治験コーディネーター(CRC)が個別に診療情報を確認する必要があり、多くの時間と労力を要してきました。
治験参加者の組み入れが計画通りに進まず、治験全体のスケジュールに影響を及ぼすケースが指摘されてきました。近年は、非構造化データを含む患者情報を横断的に解釈できるLLMの活用が注目されており、抽出精度の向上や抽出プロセスの効率化が期待されています。
4者共同研究の概要と検証アプローチ
本研究では、中外製薬が策定した治験実施計画書の適格基準に基づき、3種類の抽出手法を比較・評価します。具体的な手法は以下の通りです。
各手法の結果を医師およびCRCによる判定結果と比較することによって、治験候補患者抽出の精度を評価します。あわせて、抽出に要する時間や医師・CRCの作業量・内容の変化についても確認し、治験参加者組み入れまでのリードタイム短縮につながるかを多面的に検証しました。
本技術検証においては、NTTが独自開発した純国産の大規模言語モデル「tsuzumi 2」を用います。データ統制を重視した設計のもと、機微情報を含む情報への対応を想定した運用が可能な点が特長です。さらに、医学的公開論文等の事前学習を継続的に行った医療特化型「tsuzumi 2」として、検証を行う予定です。
NTTデータは、医療情報活用基盤「千年カルテ®」の運用で培ってきた安全な情報管理およびデータ運用設計の実績と、医療データの活用・解析に関する知見を生かします。なお、AIの出力結果は医師の判断支援を目的としたものであり、最終的な診療判断は医師が行うことを前提としています。
本共同研究は、2026年5月に近畿大学病院と株式会社NTTデータが発表した技術検証の成果を基盤として、開始するものです。
4者共同研究の概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 研究名称 | 治験候補患者抽出の精度および抽出プロセスの効率を検証する4者共同研究 |
| 参加機関 | 近畿大学病院 腫瘍内科、中外製薬株式会社、NTT株式会社、株式会社NTTデータ |
| 研究期間 | 2026年6月〜2027年3月 |
| 対象データ | 近畿大学病院の電子カルテデータ等 |
| 使用LLM | tsuzumi 2(医療特化型) |
| 倫理承認 | 近畿大学医学部等倫理委員会 |
| 近畿大学病院の役割 | 医療データの提供、治験候補患者の抽出、抽出精度・抽出プロセス効率の比較・評価 |
| 中外製薬の役割 | 治験実施計画書(適格基準)の提供および評価協力 |
| NTTの役割 | LLMによる治験候補患者抽出に関する技術検証の実施 |
| NTTデータの役割 | ルールベースによる抽出の実施および抽出精度・プロセス効率の比較・評価 |
trends編集部の一言
治験候補患者の抽出が、医師やCRCによる個別の診療情報確認に依存してきたという構造は、専門知識が求められる照合作業の非効率さとして、医療業界以外の立場からも共感できる課題です。マーケティングの現場でも、膨大な顧客データの中から特定の条件を満たすセグメントを手作業で絞り込む工程が今なお残っており、構造化データと非構造化データを横断して解釈できるLLMへの期待は業界を問わず高まっています。
本研究が注目されるのは、LLMの精度を単体で評価するのではなく、ルールベース手法との組み合わせ、さらに医師・CRCの判定結果を比較基準に置く多層的な検証設計にあります。医療AI領域全体では、「精度が高い」という主張だけでは実装判断に至らないケースが多く、どの手法の組み合わせが実運用に耐えうるかを定量的に明らかにしようとする設計は、同種研究の中でも実装根拠の構築という観点で一歩踏み込んだアプローチです。
References
- ^ PR TIMES. 「治験候補患者抽出の精度向上・効率化に向け、リアルワールドデータと生成AI(LLM)を用いた共同研究を開始 | NTT株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000181531.html, (参照 26-07-02).
