株式会社電通デジタルと株式会社電通は、生成AIと大規模言語モデル(LLM)活用における「創造性の拡張」と「評価・判断の高度化」をテーマに、人とAIの新たな協働のあり方を探る5つの研究成果を人工知能学会全国大会で発表しました。
電通デジタルと電通による人とAI協働研究の概要
今回の発表は、電通デジタルと電通が共同で取り組んだ研究5件をまとめたものです。対象は「常識の逸脱を学習するLLM」「他者ペルソナとの協働が創造性に与える影響」「広告コピー評価基準の自己進化」、「LLMによる多視点都市政策評価」「図形楽譜の音響変換」の5テーマです。
発表論文の閲覧には、会期中(〜6月12日)は人工知能学会全国大会への参加者登録とログインが必要です。7月初旬ごろからはJ-STAGEの「人工知能学会全国大会論文集」ページより、どなたでも閲覧できます。
電通デジタルと電通による創造性拡張研究
研究1「Counter-Intuitive Chain of Thought(CI-CoT)を用いた創造的生成モデル」では、常識的な解に収束しがちなLLMに対し、熟練クリエイターが用いる非連続な飛躍の思考プロセスを教師データとして与え、Supervised Fine-Tuning(SFT)で学習させる手法が提案されました。実験では、提案モデルが逆転や誇張、概念の結合といった思考を通じて、高い新規性を持つアイデアを生成できることが確認されています。今後の展開として、生成アイデアを評価するCritic開発やRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)によるモデルの洗練、GeneratorとDiscriminatorを対抗させるGAN的アプローチが有望とされています。
研究2「他者パーソナライズAIとの協働が創造的タスクの成果に与える影響」では、自己パーソナライズAIと他者パーソナライズAIの協働を比較しました。自己パーソナライズAIは、操作性と信頼感で優位である一方、他者パーソナライズAIは独創性と発想の広がりを高める傾向が示されました。
また、参加者とAIの思考スタイル距離が中程度のときに創造性が最大化される可能性が示唆されています。「適度な他者性」を戦略的に導入することが、創造的タスクにおけるAI設計の鍵になると結論づけられました。
電通デジタルと電通による評価・判断高度化研究
研究3「Training-Free GRPO(TF-GRPO)によるCriteria Drift観測」では、広告コピー品質評価における評価基準の自動進化を検証しました。TF-GRPOを適用した実験の結果、全モデルで評価精度(R1,F1)の向上が確認されています。評価改善の過程で基準が変容していく「Criteria Drift」も実証的に観測されており、専門家の暗黙知を自動的に言語化・進化させる枠組みとして、広告評価を超えた応用可能性が示されています。
研究4「LLMを活用したペルソナベースのデルファイ法による多視点都市政策評価」では、PeopleModelを基に構成した500のAIペルソナに対し、都市政策案を13の評価軸で3ラウンドにわたり評価させました。支持要因や懸念要因、不足情報の構造を分析することによって、政策公表前の段階で「どこが争点になりやすいか」を低コストかつ再現可能に可視化する枠組みとして、応用が期待されています。合意形成の自動化ではなく、初期検討や説明設計への応用が期待される研究です。
研究5「図形楽譜の視覚的質感を音響へ変換する生成的解釈の試み」では、コーネリアス・カーデューの図形楽譜<Treatise>を対象に、視覚言語モデルCLIPと音楽生成モデルMusicGenを組み合わせた変換手法が提案されました。視覚情報による制約とAI生成に伴う不確定性が併存する条件を検証しつつ、図形の形状・線の太さ・質感といった視覚的特徴を音響へ変換するこの枠組みは、図形楽譜の多義性を保持したまま音響化する試みとして、実験音楽やメディアアートにおける新たな制作・上演の可能性を示しました。
電通デジタルと電通の研究発表概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 発表企業 | 株式会社電通デジタル(東京都港区)、株式会社電通(東京都港区) |
| 発表内容 | 人とAIの協働を深化させる5つの研究成果 |
| 発表学会 | 人工知能学会全国大会(第40回) |
| 開催期間 | 2026年6月8日(月)から12日(金)まで |
| 会場 | Gメッセ群馬およびオンライン会場 |
| 論文公開 | 7月初旬ごろJ-STAGEにて一般公開予定 |
| AI戦略 | AI For Growth(国内電通グループ独自のAI戦略) |
| 関連サービス | AI広告コピー生成ツール「AICO2」、統合マーケティングソリューション「∞AI®(ムゲンエーアイ)」 |
| 代表者(電通デジタル) | 瀧本 恒氏 |
| 代表者(電通) | 松本 千里氏 |
trends編集部の一言
500のAIペルソナに都市政策案を13の評価軸で3ラウンド評価させるというスケールは、従来なら数週間かかるような多視点からの定性評価を低コストで反復できる可能性を示す数字です。業界全体としては、「生活者理解のコスト削減」がAI活用の大きな文脈になっており、この研究はその実装例として、具体的な参考となりえます。
マーケティング業界の文脈に置き換えると、クリエイティブの評価基準が担当者によって、揺れやすいという課題は業界横断で語られてきたテーマです。研究3のCriteria Driftという観測視点が示す「専門家の暗黙知を自動的に言語化・進化させる」枠組みは、広告コピー評価にとどまらず、評価の属人化が課題となっている多くの業務領域でも業界全体の動向として注目される取り組みと言えます。
References
- ^ PR TIMES. 「電通デジタルと電通、人とAIの協働を深化させる5つの研究成果を人工知能学会で発表 | 株式会社電通デジタルのプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000263.000121065.html, (参照 26-05-30).
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