株式会社ヴェルトは、コーザルAI(因果AI)プラットフォーム「xCausal®(クロス・コーザル)」の一機能として、「xCausal® データ拡張機能」の提供を開始しました。
xCausal® データ拡張機能がデータ不足という構造課題に応える
AIや統計解析の現場では、不良品や不正取引、設備故障、希少疾患といった「もっとも重要な事象ほどデータが少ない」という偏在の課題が広く存在します。意思決定上の優先度が高いケースほど発生頻度が低く、予測モデルが重要なケースを見逃しやすい構造です。
近年普及した生成AI系の合成データ手法は、高精度なモデルほど大量の学習データを必要とするため、データが少ない現場ほど使いにくいという制約を抱えます。少量データから生成すると元データの焼き直しに留まりやすく、生成プロセスがブラックボックス化するため、医療・金融のような説明責任が求められる領域では採用のハードルが高いのが実情です。
「xCausal® データ拡張機能」はこの課題に、グラフィカル因果モデル(GCM)を「データの生成メカニズム」として利用するアプローチで応えます。GCMは「ある条件が変わると次の状態が変わり、結果として品質が変わる」といった因果の連鎖を設計図として組み込みます。
ただし、少ないシードデータからでも筋の通ったデータを大量に生成できるのは、因果モデルが対象領域の実態を適切に捉えていることが前提です。一つひとつの値について「なぜそうなるのか」という理由を説明できる点も、GANやVAEなどの模倣的なアプローチとの大きな違いといえます。
xCausal® データ拡張機能の特長と忠実性検証の仕組み
本機能の特長は大きく4点あります。第一は、相関の模倣ではなく因果構造に基づくデータ拡張です。親を持たない変数(根ノード)はその変数の分布からサンプリングし、親を持つ変数(子ノード)は「子 = f(親) + ノイズ」という関数型のメカニズムで値を決定します。
この処理を上流から下流へ順番に繰り返すことで1件分のデータ(1行)が生成され、必要な件数だけ繰り返せば大規模なデータへと拡張できる仕組みです。実際には起きていない介入・反実仮想シナリオまで生成できるため、稀有なイベントへの対策やストレステストにも活用できます。
第二は、忠実(Fidelity)検証機能の標準搭載です。拡張された「合成的拡張データ」がシードデータをどれだけ忠実に再現しているかを、次の2つの観点から定量的に確認できます。
- 各変数の分布の類似度:単変量分布をシードデータと比較
- 変数間の相関関係の比較:変数同士の相関・依存関係の保持を確認
この評価の考え方は、英国国家統計局(ONS)が示す合成データの定義・評価手法を参照したものです。より高い精度を確認する場合は、シードデータと拡張データそれぞれで同一の予測モデルを構築・比較するプロフェッショナルサービスも用意されています。
第三は、コーディングなしで直感的に使えるSaaS型プラットフォーム「xCausal®」を基盤とする点です。構造的因果モデル(SCM)に基づく因果推論や頑健性評価などの機能を備え、信頼性の高いモデルを素早く作成できます。
第四は、因果モデル(GCM)の構築支援から拡張データの実用性(Utility)検証までを一貫して担うプロフェッショナルサービスです。共変量など必要な変数とデータの洗い出し、モデル構築支援、実用性検証までをヴェルトが伴走します。
xCausal® データ拡張機能の展開領域とユースケース
ヘルスケア・創薬や金融・保険、フィジカルAI・モビリティや製造業、社会インフラ・防災やサイバーセキュリティなど、データの希少性・不均衡が課題となる幅広い領域での提供予定です。例えば、次のようなユースケースを想定しています。
- 製薬:外部対照群(External Control Arm)の生成――数件の患者データから反事実データを生成し治験の疑似的な対照群を構築
- 金融:AML(アンチ・マネー・ロンダリング)の新手口耐性テスト――因果グラフから未観測の不正パターンを生成し検知モデルの死角を解消
- フィジカルAI:物理整合エッジケース生成――物理法則を強制した拡張により、わずかな計測データから物理的に正しい事故データを安全に量産
岡山大学大学院保健学研究科の渡辺 彰吾氏は、「循環器疾患における個別化医療の発展に向けた重要なモデルケースになると強く期待しています」と述べており、循環器疾患における個別化医療への活用に期待を示しています。
xCausal® データ拡張機能の概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 提供企業 | 株式会社ヴェルト |
| 機能名 | xCausal® データ拡張機能 |
| 対象プラットフォーム | xCausal®(クロス・コーザル) |
| カテゴリ | コーザルAI(因果AI)プラットフォーム機能 |
| 対象データ | 表形式の数値データ |
| 主な機能 | 因果構造に基づくデータ拡張 忠実(Fidelity)検証機能 反実仮想シナリオ生成 |
| プロフェッショナルサービス | 因果モデル作成支援・実用性(Utility)検証等 |
| 代表取締役 CEO | 野々上 仁氏 |
| 本社所在地 | 東京都渋谷区神宮前5-18-10 2-D |
| 設立 | 2012年8月1日 |
| URL | https://veldt.jp |
trends編集部の一言
「データが少ないほど使いにくい」という生成AI系手法の制約は、マーケティングの現場でも身近な問題です。施策効果の分析や顧客行動のモデリングで、新規施策ほどサンプルが集まりにくいという状況は珍しくありません。因果構造を設計図として持つことで、少量データからでも筋の通ったデータを生成できるというアプローチには、業界を問わず参考になる考え方が詰まっています。
マーケティング業界の文脈に置き換えると、「相関ではなく因果で動く」設計思想はコンテンツ効果測定やMA施策の評価基盤としても業界横断で注目されてきたテーマでした。データ拡張の領域にその発想を持ち込む動きは、業界全体の分析アプローチの転換を示す動きとも捉えられます。
英国国家統計局(ONS)の評価手法を参照した忠実性(Fidelity)検証を標準搭載している点も注目に値します。「生成AIの出力をどこまで信頼できるか」というテーマはマーケティングの文脈でも常に議論になる問いです。「なぜそのデータが生成されたか」を因果構造で説明できる設計は、説明責任が求められる場面での検討材料として業界全体に示唆を持ちます。
2025年12月23日に閣議決定された「人工知能基本計画」や2025年6月13日に決定された「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」など、政府の政策との接続も明示されています。2026年にミッション・ステートメントを刷新した株式会社ヴェルトが取り組む「質を保ったままのスケール」という難題は、データとAIの好循環という大きな流れの中で業界全体が注目する動きです。
References
- ^ PR TIMES. 「因果メカニズムでAI開発・統計解析の「データ不足」を解消 | 株式会社ヴェルトのプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000020222.html, (参照 26-07-07).
