AICE株式会社と株式会社青山財産ネットワークスは、「300体のAIエージェント」構想を共同で推進することを発表しました。
青山財産ネットワークスが抱える「一人前まで5年」という構造的な壁
株式会社青山財産ネットワークスには、現在240名ほどのコンサルタントが在籍していますが、主担当としてフロントに立てるのは体感で6割ほどにとどまっています。総合財産コンサルティングは、相続・税務や法務、財務に加え、企業文化や家族関係など複数の領域が絡み合い、学ぶべき知識が広く深い。
提案に落とし込むまでの「記憶する仕事」も膨大であり、ベテランコンサルタントほど多忙を極め、教育はOJTに依存しがちでした。
三浦雅範氏は「育成の遅さは、個人の努力だけでは解けない『学びと業務が同じ人に集まりやすい構造』から生まれている」と説明しています。案件ごとに状況が異なる現場では、過去の判断や提案の背景が資産化されていないと、同じ調査や検討が繰り返されやすい構造がありました。こうした背景から、同社は2024年にDX推進室を立ち上げ、課題の根本的な解決に着手しました。
「300体のAIエージェント」構想で人の能力をDXする
三浦雅範氏(執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長)は、DXの焦点を事務作業の効率化ではなく、コンサルタントの能力の底上げに置いたと説明しています。「どれだけ事務効率が改善されても、人が育つまでに時間がかかる構造そのものは変わらない」という判断から、AIが「新人たちの先生役として機能する」という方向性を描きました。
24時間365日、相続・税務や法務、財務の知識にアクセスでき、過去事例の整理や調査の補助も担える存在を社内に複数配置することによって、コンサルタントが「お客様と向き合う仕事」に多くの時間を使えるようになるという構想です。
髙橋郁弥氏(経営企画本部 経営企画部 ソリューショングループ 兼 DX推進室 課長)は「AIを便利ツールとして置くのではなく、育成と業務の双方に効く形で設計することがポイント」と語っています。誰か一人の経験に頼らず、必要な知識にいつでも辿り着け、過去事例の比較や根拠の整理まで手伝ってくれる環境があれば、学び方そのものを変えられると考えました。
業務構造の分解から生まれた「300体のAIエージェント」構想の根拠
「300体のAIエージェント」という構想は、最初から300を目標として掲げたものではありません。事業承継・財産承継の現場で、コンサルタントが日々どのような判断をし、どんな調査や整理をしているのかを業務単位にまで分解していくと、複数の大きな業務クラスターに整理でき、さらに細分化すると約300の独立した業務の単位として切り出せることが分かりました。
三浦雅範氏は「300という数字は、構想として、考えた数ではなく、業務構造を『見える化』したときに自然に導かれた数だった」と説明しています。
髙橋郁弥氏によれば、想定するAIエージェントは「何でも答えるチャット」ではなく、業務分解で切り出したタスクごとに専門に下準備を担う、タスク特化の存在として設計しています。調査や整理、比較・要点化といった作業をタスク単位で確実に埋めていくことで、コンサルタントが判断や対話に集中できる土台を整える狙いです。
育成期間を「5年から3年へ」近づける未来像
三浦雅範氏が描く未来は、若手が早い段階から実践を重ねられるようになり、ベテランは属人的な対応に追われるのではなく、判断の観点や考え方を言語化して伝える時間を確保できる状態です。個人の経験に依存したOJTから再現性のある育成への移行が実現することによって、育成期間を「5年から3年へ」近づけ、コンサルタントを早期に育成できるようになることを目指しています。
コンサルタントが磨くべき力のシフトも想定されています。AI前提の教育モデルでは、記録や知識の整理・一次判断の多くをAIに外部化できます。その役割分担のうえで、人が発揮すべき価値は「初回面談で本音を引き出す問い」「対話の深さ」「合意形成」、そして「未来を言語化する力」へと移っていくでしょう。
総合財産コンサルティングの現場は数字中心の業務に見えて、実態は人生や家族の物語に深く触れる仕事でした。人にしかできない価値を最大化する存在こそが理想のコンサルタント像だとしています。
社内浸透を支える「DXアドバイザー構想」と自走への道
浸透の課題として、葛西夏美氏(経営企画本部 DX推進室)は「どのAIエージェントを誰がどう使うか」「部門による活用レベルの差」「具体的な活用シーンの共有不足」といった壁を挙げています。各部門からAIに関心のあるメンバーを選び、利用方法の伴走や活用事例の展開、現場からの改善点の吸い上げを担ってもらう「DXアドバイザー構想」を検討しているのは、こうした課題への対応策です。
細井悠貴氏(経営企画本部 DX推進室)は、将来的には「社内でAIエージェントを開発できる領域を増やす」土台にもなると見通しています。高度な構造設計が必要な部分は外部との共創で進めながら、身近な業務に近いAIエージェントは社内でつくる「自走状態」を目指す考えです。「300体のAIエージェント」は技術を導入して終わりではなく、社内でも自走するAI活用へつなげていくための挑戦として位置づけられています。
AICE株式会社と「300体のAIエージェント」構想の実装へと変わった経緯
AICEとの出会いは企業展示会がきっかけでした。「AIで事業承継・財産承継のコンサルティングのあり方を変えられないか」と議論していた時期に、AICEのブースで話を聞いたのが最初です。
三浦雅範氏は「技術の説明だけではなく、事業承継・財産承継という特殊な文脈を踏まえて議論でき、現場に寄り添った会話ができたことが印象的だった」と振り返っています。
AICEと組むと決めた理由について、三浦雅範氏は次の3点を挙げました。
- 運用・実装を前提に提案する姿勢
- PoCの目的が明確で、KPI改善といった事業価値に直結する視点での設計
- やると言ったことをやり切る姿勢
髙橋郁弥氏は「どの領域にAIを適用し、どこに人の力を残すのかという線引きは、継続的に見直す必要がある」と語っています。「現場で価値が生まれるかどうか」を基準に考えるAICEの姿勢が、同社のDX構想と相性が良いと感じた点が、パートナー選定の決め手となりました。
青山財産ネットワークスとAICEの概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 会社名(クライアント) | 株式会社青山財産ネットワークス |
| 本社(クライアント) | 東京都港区赤坂8丁目4番14号 青山タワープレイス3階 |
| 設立(クライアント) | 1991年9月17日 |
| 資本金(クライアント) | 12億6,899万円(2025年12月31日現在) |
| 従業員数(グループ連結) | 398名(2025年12月31日現在) |
| 事業内容(クライアント) | 財産コンサルティング、事業承継コンサルティング、不動産ソリューションコンサルティング |
| 会社名(推進パートナー) | AICE株式会社 |
| 所在地(推進パートナー) | 東京都文京区後楽2丁目3-21 住友不動産飯田橋ビル 4F |
| 代表取締役 CEO | 佐藤匠氏 |
| 事業内容(推進パートナー) | 業界特化型DXコンサルティング、生成AI環境の構築支援 |
| 構想名 | 「300体のAIエージェント」構想 |
| 育成目標 | 一人前になるまでの期間を「5年から3年へ」近づけることを目指す |
trends編集部の一言
「一人前になるまでに5年かかる」という構造的な育成課題を、業務を約300単位に分解することで可視化し、AIエージェントの設計根拠にしている点は注目に値します。業界全体としては、新人が独り立ちするまでに膨大な暗黙知の習得が必要な状況はマーケティング・営業・コンサルティング職を問わず共通の課題であり、「何でも答えるチャットではなく、タスク特化の存在として設計する」というアプローチは、業界横断で語られるAI活用の方向性と一致しています。
特に注目されるのは、AIを「育成のインフラ」として位置づけている点です。業界全体としては、生成AI導入の議論が「業務効率化」に集中しがちな中、「学び方そのものを変える」という設計思想は一歩踏み込んだ視点と言えるでしょう。「DXアドバイザー構想」のように現場の自走状態を目指す仕組みも合わせて設計されており、AI活用定着をテーマとする企業事例の一つとして、業界全体から注目される取り組みです。
References
- ^ PR TIMES. 「青山財産ネットワークスとAICEが描く、「AIと人が共創する働き方」構想 | AICE株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000171947.html, (参照 26-05-21).
