コーレ株式会社は2026年5月7日、脳の構造を実装したメモリレイヤー「Cerememory(セレメモリ)」をオープンソースとして公開しました。
Cerememory開発の背景と記憶層の課題
「Cerememory(セレメモリ)」開発の背景には、AIエージェントに長期的な記憶を持たせるという課題があります。各社では、メモリ機能やベクトルDBを使ったRAG、コンテキストエンジニアリングなど、さまざまな実装が進んでいる状況です。
一方、人間の記憶は、単に情報を保存して、取り出す仕組みではありません。重要な体験は鮮明に残り、些細な出来事は薄れ、関連する記憶が連鎖的によみがえる特徴があります。
また、「Cerememory(セレメモリ)」は、記憶を静的な保存先ではなく、動的に変化し続けるものとして実装しています。神経科学研究で観察される現象を、データ構造だけでは、なく実行系にも取り入れている点が特徴です。
Cerememoryの設計原則とCMPプロトコル
「Cerememory(セレメモリ)」は、忘却や干渉、睡眠時の整理など、人間の記憶に近い動的プロセスを取り入れた設計を採用しました。記憶は固定データではなく、想起のたびに変化する構造として扱われています。
また、AIエージェントの記憶レコードには、「なぜその記憶が存在するのか」を記録するメタメモリプレーンを備えています。意図(intent)や根拠(rationale)、エビデンス(evidence)、代替案(alternatives)などを保持し、理由から記憶をたどれる構成です。主な設計原則は次の3点です。
- 記憶を動的に生きているものとして扱う
- 記憶は「内容」だけではなく「理由」を持つ
- 記憶層をAIから独立したレイヤーにする
同プロトコルのCMP(Cerememory Protocol)では、ClaudeやGPT、Geminiなど、異なるLLMから共通の記憶層へアクセスできる構造を採用しました。HTTP/RESTやgRPC、MCPをバインディングとして扱う独自プロトコルとして定義されています。
さらに、データはローカル保存に対応し、エクスポートも可能です。AIサービスを切り替えた場合でも、記憶データをユーザー側で保持し続けられる構成となっています。
Cerememoryの5ストア構造と記憶ダイナミクス
「Cerememory(セレメモリ)」は、記憶を5つの専門ストアへ分けて格納するアーキテクチャを採用しました。海馬に対応するEpisodicや大脳新皮質に対応するSemanticなど、脳構造を参考にした役割分担が特徴です。
また、会話原文やツール出力、スクラッチパッドを保存する「生ジャーナル(Raw Journal)」を、独立したフォレンジック層として配置しています。記憶の変化に関わる主なダイナミクスは次の5点です。
- 時間経過で少しずつ薄れていく忘却曲線
- 似た記憶が互いの細部をぼかしあう干渉ノイズ
- 思い出すたびに記憶が変わる拡散活性化と再固定化
- 睡眠中に一日の出来事を整理する記憶圧縮
- 感情が動いた記憶ほど長く残る感情モジュレーション
他にも、Cerememoryを利用するAIエージェントは、すべての情報を均等に保持するわけではありません。感情が動いた出来事を優先して記憶する設計を通じて、人間の記憶に近い自然な劣化モデルを目指しています。
Cerememoryの技術概要と提供価値
「Cerememory(セレメモリ)」は、実装言語にRust、ストレージにredbを採用して開発されています。検索には、Tantivyとredb上の決定論的コサインインデックスを利用している点も特徴です。
また、すべての記憶レコードにはメタメモリプレーンが付随しており、長期的な意思決定の経緯を追跡できる構成を採用しました。エージェントによる自己説明や複数エージェント間での根拠共有にも対応しています。
さらに、5ストアとは別に、原文を保持する「生ジャーナル(Raw Journal)」を独立して保存しています。主な技術的特徴は次の3点です。
- 「内容」ではなく「理由」で検索するメタメモリプレーン
- 現実的な想起と完全検索を切り替えるHuman/Perfectモード
- HTTP/REST、gRPC、MCPをバインディングとして扱うCMPプロトコル
同プロトコル設計により、フロントエンドやバックエンドサービス、LLMエージェントが同一の記憶層を共通抽象として扱えます。AI時代のメモリ層を、APIではなくプロトコルとして定義する取り組みとして位置づけられそうです。
CerememoryのOSS公開概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 提供企業 | コーレ株式会社 |
| 発表日 | 2026年5月7日 |
| 対象サービス | Cerememory(セレメモリ) |
| 主な機能 | 5ストアアーキテクチャ メタメモリプレーン 生ジャーナル(Raw Journal) |
| 主な技術要素 | Rust redb Tantivyと決定論的コサインインデックス |
| ライセンスとコミュニティ | オープンソース公開 コミュニティフィードバック受付 コントリビューション受付 |
trends編集部の一言
AIエージェントの長期記憶を、人間の脳構造になぞらえて再設計する発想は興味深いと感じます。単なる保存容量の拡張ではなく、忘却や感情による優先度変化まで実装対象に含めている点は、従来のメモリ設計とは異なる方向性ではないでしょうか。
特に、メタメモリプレーンによって「なぜ記憶したのか」を保持する設計は、複数エージェント運用の場面で検討価値がありそうです。AI活用が広がるにつれ、出力結果だけでは、なく意思決定の経緯を追跡できる仕組みへの関心も高まっていくでしょう。
また、Human/Perfectモードを分けた設計からは、人間的な曖昧さと完全検索を両立しようとする意図が読み取れます。今後、OSSコミュニティの参加によって、どのような実運用事例が生まれるのか注目が集まりそうです。
References
- ^ PR TIMES. 「AIに「人間のように覚えさせる」。脳の仕組みに基づく"生きた記憶"データベース「Cerememory」をオープンソースで公開 | コーレ株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000092.000037237.html, (参照 26-05-09).
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