成長をテーマにした今回の連載企画。これまでの記事では日本が経済停滞とIT後進国の課題を抱える中で、急成長するAI時代に対応するためにはIT技術全体の底上げが必要であることを解説した。
前回記事「未来を見据えたアップデートの思考法」では、IT技術が民主化された現代に求められる基礎知識やスキルの向上について取り上げた。
特にAIを含めたIT技術を活用して自己成長(アップデート)を図り、スキルや知識を売り上げ向上や業務効率化に結びつける重要性について解説している。
今回は前記事で述べた「AIを含めたIT知識やスキルを習得する重要性」から、個人・企業が成長し続けるためにITスキルの習得を持続的に実践する必要性について紹介しようと思う。その取り組みが中長期的な成長にどう結びつくのかについても解説する。
持続的な成長の必要性
現代社会ではテクノロジーの進化が加速し、これまでの成功モデルでは解決できない新しい技術への対応や、競争力の維持といった課題が生まれている。日々新しい技術が登場し、環境の変化が予測困難な速さで進んでいるのが現状だ。
たとえばニュース番組では近年AIによる自動音声の読み上げが導入され、全国27の放送局のラジオでも活用されている。[1]
AIなどの最新技術が人間の作業を代替し、従来とは異なる形で価値を提供する場面が増えている。変化の激しい現代では新しい技術を取り入れ、それを応用するスキルを磨き続けることが重要だ。
以前の記事「代替される仕事、進化する社会。AIと共に歩む未来像とは? 」でも紹介したが、最新技術による変化はさまざまな業界で起こる可能性が高い。一時的なスキルの習得ではなく、継続的な成長が必要だというのが結論になる。
一時的なリスキリングではなく継続的なアップデートを
アップデートを実現する具体的な手段として注目されているのがリスキリングだ。
しかし一度リスキリングを行っただけで安心すると、そのスキルは数年で使えなくなる可能性がある。一方で継続的なアップデートは短期的な目標を立てつつ、長期的な視点でスキルや知識を積み重ねるアプローチである。
また、以前の記事で触れたようにリスキリングの内容を選ぶ際、売り上げへの貢献や課題解決につながる視点を持つことが大切だ。
注目すべきリスキリングの分野として生成AIの理解やデータ分析、ITの基礎知識の3つが挙げられる。具体的な理由は下記の通り。
生成AIの理解 |
生成AIの仕組みや活用方法を理解することで、効率的な業務改善や新しいサービス開発の発想につなげることが可能。 特に文章生成や画像生成の活用は、多くの業界で競争力を高める手段となっている。 |
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データ分析 |
データを適切に収集・分析して課題解決や意思決定を行うスキルは、あらゆる業界で重宝されている。 BIツールやPython、SQLなどを活用し、業務の可視化やパフォーマンスの向上に役立てられる。 |
ITの基礎知識 |
ネットワークやセキュリティ、クラウド技術といったITの基本的な知識はトラブルシューティングや新サービスの開発、効率的な情報管理に直結する。 業務のデジタル化が進む中で、これらのスキルは幅広い分野で役立てることが可能。 |
3つの知識・スキルは相互に関連しており、特にIT基礎知識がほかのスキルを活かす基盤となる。AIやデータ分析はIT技術を基盤として成り立つため、学習を進める中でIT知識が必要になる場面が多い。
疑問が生じた際はChatGPTなどの生成AIを活用して効率的に解決できるが、IT技術全体の関連性や基本構造がわからないと解決できないこともある。この理由については下記の記事で実体験を元に解説している。
ITの基礎知識や技術を身につけることで必要な情報を適切に判断でき、IT社会において持続的な成長を実現するための土台となるだろう。
継続的なアップデートによる中長期的なメリット
短期的なスキル習得は一時的な課題解決や即効性のある成果を生むが、それだけでは急速に変化する環境や新しい課題に対応することは難しい。一方で継続的にアップデートするとスキルの蓄積と応用力が身に付き、複数のスキルが結びつくことで新しい価値を生み出せる。
たとえば単発的にデータ分析スキルを学んだ場合、基本的なBIツールで可視化レポートを作成して簡単な意思決定を支援することが可能だ。しかしここで学びを止めてしまうと、複雑なデータパターンの分析や将来の予測が求められる場面など、ほかの形でデータ分析を求められたときに対応できなくなる。
「データ分析に関する学習と実行の継続」や「その時代に合ったデータ分析ツールのチェック」を実施すれば中長期的に必要とされるとして活躍できるだろう。
単発のスキル習得だけでは現状の課題解決が限界だが、継続的なアップデートを行うことで未来の価値創造へと役割を広げることが可能になる。
では継続的なアップデートによって中長期的に成長するためには、具体的に何からやるべきなのだろうか。
中長期的な成長のためにやるべきこと
中長期的な成長戦略の具体例を、企業と個人の2パターンに分けて紹介する。
個人の成長戦略
AI時代を見据えたスキル選定
IT社会ではAIの役割が拡大しているので、AIを活用してできることや人間がやるべき業務のスキルを身につけることがおすすめ。たとえばAIツールを使ったチャットボットの作成やデータ分析、AI活用による業務効率化の方法などが挙げられる。
AIを活用してデータ分析できる範囲も広がってきているが、分析の目的設定や必要なデータの収集、整理にはまだ人間の力が必要だろう。
継続的に学習するための環境づくり
新しいスキルの習得において壁となるのがモチベーション管理だ。多くの人がモチベーションの維持に苦労し、途中で学習を断念することも少なくない。
モチベーションは気持ちだけだと持続しないため、学習を継続できる環境を整える方法としてオンラインスクールの受講も手段のひとつになる。
環境づくりもそうだが、受け身ではなく主体的な学びを継続してeラーニングなどのオンライン講座を活用することが大切だ。
企業の成長戦略
リスキリングの機会を創出
企業が成長するためには、リスキリングの機会を積極的に創出することが必要だ。具体的には社内研修の機会を設けたり、資格取得における受験料の補助などが挙げられる。
社内研修に人的リソースを割くことができない場合は、企業が提供している法人向けの研修なども適している。
DXに適応した人材の育成
ITベースの社会で勝ち残るためにも「既存の仕組みを見直し業務を効率化すること」や「IT技術を活用した新しいサービスの開発」を担えるDX人材の育成が求められる。
その手段として法人向けのDX研修や、社員がスキマ時間で学習できるeラーニングの活用が効果的だ。
個人であれば継続的に学習するためのモチベーション管理、企業においては従業員をリスキリングするための環境設定がポイントになるだろう。
ITベースの社会における成長戦略は「分ける力」
ITベースの社会ではAIなどの最新技術を活用し、定型業務の効率化や自動化が求められている。一方で人間は判断力や創造力が必要な業務に集中することが重要になる。
この役割分担により生産性を向上させるだけでなく、価値を生む業務へリソースを最適化できるのが魅力だ。
- AIが担当する仕事:定型化された業務や大量のデータ処理
- 人間が担当する仕事:問題解決のための意思決定や人との対話を伴う業務
たとえば経理業務では経費管理システムを導入することで、定型業務を自動化することが可能だ。結果として担当者は決算報告や経営レポートの作成など、高度な業務に集中できるようになる。
また、製造業ではAIが製品の画像を分析してキズや欠陥などの異常を自動検出することで、人間の担当者は原因分析や対応策の策定に専念することが可能だ。
このように「定型作業と判断・対話の業務を切り分ける力」を意識することでAIと人間の役割分担を最適化し、IT社会での持続的な成長が実現できる。
IT技術を使いこなすためにも「ITリテラシー」が必要
IT技術に任せる部分と自分で対応すべき部分を見極めるには、業務全体を正確に把握して技術を適切に活用するスキルが必要になる。その基盤となるのがITリテラシーだ。
ITリテラシーは技術の仕組みを理解し、業務フローを整理して効率化を図る力を含んでいる。また、安全にITを運用するためのセキュリティリテラシーも重要な要素であり、IT技術の活用を支える重要な知識なのだ。
IT技術の特性を理解して業務内容を細かく分析することで、自動化できる部分と人間が行うべき部分を明確に分けることが可能。結果として業務全体を効率化し、より高い生産性を実現できる。
本記事のまとめ
AIを含むIT技術の進化により、個人や企業が求めるスキルも変化している。これからの社会ではIT技術を理解し、自動化できる部分と自分で行うべき部分を見極める力が必要だ。その上で業務全体を最適化する能力が求められる。
こうしたスキルの向上は一時的なリスキリングでは限界があり、持続的な成長を支える「環境」の整備が欠かせない。 特に企業では転職や離職といった人材の流動性が避けられないため、組織全体で人が成長しやすい仕組みを整えることが重要になる。
次回は企業・個人が中長期的に成長する上で最適な環境設定について紹介していく。
References
- ^ NHK. 「未来に向けて進化を遂げる AIによるアナウンス」. https://www.nhk.or.jp/css-blog/100/492648.html, (参照 2025-01-10).