富士通株式会社は、複数のAIエージェントがチームとして業務を遂行しながら、継続的に自律学習する「自己進化マルチAIエージェント技術」を開発しました。
富士通株式会社の自己進化マルチAIエージェント技術の開発背景
企業業務では、法改正や制度改定、仕様変更・現場ルールの変更が継続的に発生しています。特に業務文書や設計仕様書が膨大な業種では、どの情報を参照し、どの判断基準を優先するかは、熟練者の経験や暗黙知に依存してきました。従来のAIエージェントでは、与えられた指示に対して高い処理能力を発揮する一方で、「失敗した理由を自ら整理し次の業務に安全に反映する」ことは困難でした。
富士通株式会社は、この課題を解決するため、AIエージェントが業務経験を自ら検証しながら、安全に学習する技術を開発しました。本技術の最大の特長は、成功・失敗の理由を整理して改善案を生成し、品質や安全性を検証したうえで有効なものだけを学習する点です。これにより、従来は専門家が継続的に担っていたプロンプト調整や評価基準の更新を、AIエージェント自らが担えるようになりました。
富士通株式会社による業務特化型LLM「Takane」への適用と精度評価
富士通株式会社は、本技術を業務特化型LLM「Takane」の構築プロセス全体に適用し、精度評価を実施しました。製造や医療、金融・行政などの複数領域で「Takane」を自動的に強化したところ、業務特化前と比較して平均28ポイントの大幅な精度向上を確認しました。汎用AIモデルと比較しても高い精度を示しており、各業務に最適化されたAIの有効性が確認されています。
医療分野では、診療記録や検査結果といった非構造データから診断名や進行度、治療方針などを一貫した形式で抽出するタスクに本技術を適用しました。業務に即した情報抽出・構造化が可能となり、従来は専門知識に基づく設計や調整が必要だった業務特化型LLM(Takane)の構築・改善プロセスをマルチAIエージェントが代替できることが確認されています。
また、OneFujitsuイニシアティブのもとで進めているグローバル標準化とあわせ、本技術と「Takane」を搭載したマルチAIエージェント基盤をグローバルに適用することによって、Data & AI-driven経営への転換を加速しています。
HOPE LifeMark-HXとMICJET住民記録への設計仕様書検索の展開
富士通株式会社は、大中規模病院向け電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」および地方公共団体向け業務ソリューション「MICJET住民記録」の設計仕様書群を対象としたAIエージェント型文書検索にも本技術を適用しました。法改正や制度改定に伴うソフトウェア改修の影響範囲を特定する作業は、従来は制度・業務知識とシステム構造への深い理解を持つ熟練者に依存していました。
本技術を適用した結果、AIエージェントが過去の検索結果や失敗事例・人の修正内容を学習し、探索範囲の拡張や関連文書の抽出戦略を自律的に改善するようになりました。「一見対象外と見られる文書でも同じ業務領域であれば候補から外さない」といった熟練者の探索のコツを掴み、次の業務に活用できる点が特長です。今後、これらの知見と技術を富士通のAI-Driven Software Development Platformに適用し、設計・開発プロセス全体の高度化と効率化へ展開する予定です。
富士通株式会社の自己進化マルチAIエージェント技術概要
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 開発企業 | 富士通株式会社 |
| 技術名称 | 自己進化マルチAIエージェント技術 |
| 技術カテゴリ | AI技術 |
| 主な特長 | 業務実行結果・人のフィードバック・制度改定からの継続的自律学習 品質・安全性検証を経た改善案のみを反映する安全進化設計 プロンプト調整・評価基準更新の専門家作業をAIが代替 |
| 適用実績 | 業務特化型LLM「Takane」(製造・医療・金融・行政領域) 「HOPE LifeMark-HX」および「MICJET住民記録」設計仕様書検索 |
| Takaneの精度向上効果 | 業務特化前比較で平均28ポイントの大幅な精度向上を確認 |
| 提供予定 | 「Fujitsu Kozuchi Enterprise AI Factory」への組み込みを予定 |
| 関連プラットフォーム | Fujitsu Kozuchi |
| 共同研究 | カーネギーメロン大学 Graham Neubig氏准教授、Tim Dettmers氏助教 |
trends編集部の一言
業務特化前と比較して平均28ポイントという精度向上は、数字として率直なインパクトがあります。マーケティングの現場でも、ツールを導入した直後は「使いこなす人」と「使いこなせない人」に分かれる現象が繰り返されており、AIシステム自体が業務経験から学び続ける仕組みは、業界全体としての導入ハードルに対する一つの回答として読み取れます。
人の関与を残しながら安全性を担保する方向性は、マーケティング業界の文脈においても、生成AIの出力信頼性と人間関与のバランスを模索する上での重要なアプローチとして捉えられます。クラウドだけではなくオンプレミス・エッジ環境への展開を視野に入れている点も含め、今後の動向として注目される取り組みです。
References
- ^ PR TIMES. 「業務とともに学び続ける自己進化マルチAIエージェント技術を開発 | 富士通株式会社のプレスリリース」. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000567.000093942.html, (参照 26-05-27).
