地方が見習い店舗モデルで人材育成を再設計、生成AI時代の実践型マッチングが地域を変える

地方が見習い店舗モデルで人材育成を再設計、生成AI時代の実践型マッチングが地域を変える

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スピーカー

下山 雄大
コードキャンプ株式会社
ラーニングソリューション事業部 事業部長

地方と人材育成
~「見習い店舗」という補助線~

お寿司屋さんの話から始めさせてください

東京すしアカデミーという寿司職人の養成学校があります。ご存知でしょうか?

2002年に設立された日本初の寿司専門学校で、卒業生は5,000名を超えます。
面白いのは学校そのものではなく、この学校が運営していた「鮨アカデミー」という店舗の方です。

この店では、修業中の生徒がカウンターに立って寿司を握ります。お客さんはそれを承知の上で来店します。

で、タクシーの乗った後の「慣れないもので」と言われるのは違います、乗った後ので期待値調整なので (運転手さんに悪気はないと思いますが)

そして本格的な江戸前握りの食べ放題を3,000円前後という都内、特に神楽坂一帯では大変お得感のある値段でで楽しめます。 (もちろん美味しさを感じるか?満足するか?楽しめるか?はどこまで行っても主観ですのが)

ここで起きていることを構造として、整理させてください。

握る側(生徒)は、教室ではなく実際の客を前にして技を磨く。食べる側(お客さん)は、「見習いが握っている」という前提のもとで、 割安に本格的な寿司を楽しむ。そして学校は、育成の場と収益を同時に得る。

コンビニのレジに「研修中」の名札を付けいたり、タクシーにとって行き先を伝えると「慣れないもので」と言われるとは違います。
あれはエクスキューズであり、後出しの期待値調整だからです。(若葉マークの店員さん、運転手さんに悪気はもちろんないですが)

鮨アカデミーがやっていたのは「提供する価値」と「コスト」と「期待」の三者を、事前に、戦略的に調整するという設計でした。

これ、地方の人材育成にそのまま使えるのではないかと私は考えます。

教育だけでは人は育たない、という前提

私はIT教育サービスの会社で、企業・行政機関向けの研修事業に携わっています。

地方自治体の委託事業として、地域内のIT人材育成、DX推進人材の育成講座、就職氷河期世代のスキル取得事業、女性向けのデジタル技能習得支援などを 複数年にわたって実施してきました。

その中で痛感するのは、教育だけでは頭打ちになるということです。
講座の質を上げる。教材を工夫する。伴走する講師を付ける。これらはすべて重要ですし、我々も相当にこだわってきました。

しかし、どれだけ良い講座を設計しても、学んだことを使う場がなければ、知識は知識のままです。(これ自体にももちろん意味は持たせられますが)

ここでよくある議論が「では実践的なプロジェクト学習を入れよう」というものです。
もちろんそれも一歩前進ではあります。が、私が提唱したいのはもう少し踏み込んだ話です。

「見習い店舗」を地方に作る

唐突な小見出しを補足させてください。 たとえばこういうことです。

  • 業務システムの基礎を学んだ受講者が、資金も人手も限られた地元のNPO法人に入り、業務の棚卸しからツール導入までを支援する。
  • 経営やマーケティングを学んだ受講者が、集客やオペレーションに苦戦する老舗旅館に泊まり込みで支配人のサポートをする。

そして、ここで肝になるのは、先ほどの寿司屋と同じ「三者調整」です。 受け入れ側(NPOや旅館)は、受講者が出す成果物に対する期待値を割り引く。一流の専門家が来てくれるわけではありません。

その分、費用負担は軽い、もしくはゼロです。一方で受講者は、これが学習の延長ではなく実践の場であるという覚悟を持つ 。「勉強させてもらっている」ではなく「価値を出しに来ている」というマインドで臨みます。

ここに「仲介者(調整薬)」が入ります。行政だったり、我々のような民間の教育事業者だったりします。仲介者の役割は、

単にマッチングすることではなく、双方の期待値を戦略的に調整し、受講者の成果物の品質を一定以上に担保することを目指しすもので ここが肝というか急所となります。

注意が必要なのは、仲介者がそのまま自分でコンサルティングをやり始めてはいけないということです。

それをやると、ただの請負や外注と変わらなくなります。 あくまで受講者が前に出て、仲介者は後ろで支える。
寿司アカデミーでいえば、生徒がカウンターに立ち、講師は厨房の奥で見守っている、冒頭のあの構図です。

なぜ「地方」なのか

「地方だから特別な人材育成が必要」とは私は思いません。
されまでのネットに繋げばとこにいても情報が入る時代でしたし、 加えて生成AIの普及によって、情報やツールへのアクセスにおける地域格差はほぼなくなりました。

都市部の大企業社員でも地方の個人事業主でも、同じAIを使って同じことができる時代であり、 故に、むしろ私が言いたいのは、先ほどの「見習い店舗」の受け入れ先が、地方にこそ豊富にあるということです。

人手が足りない。専門家を雇う余裕がない。でも課題は山積している。こういう課題を抱えた地場の事業者さんが地方には多い体感地です。
見方を変えれば、それは「見習いが実践できる場」の宝庫ということです。双方にとっての利害が一致しやすい土壌があります。

ある県の事業を通じて印象的だった出来事があります。女性向けデジタル人材育成の受講者で、思うような就業につながらず連続受講されていた方が、 ご自身で求人を探して2社から内定を得ました。いずれも業種だけ見ればデジタルとは縁遠い、地場の中小企業です。

しかし本人いわく、「どちらの企業も、女性がキャリアを継続する困難さや家庭との両立への理解を示してくれた。自分のこれまでの経験も活かせそうだ」と。

同じ時期に、地元の中堅企業から「この講座の受講者を採用したい。特に40〜50代の女性を迎えたい」という問い合わせが自治体に届きました。
人事責任者に背景を聞くと、「育児や介護を経験した女性の、他者への想像力を現場に活かしたい」という。経営トップの方針だそうです。

この2つのエピソードから得た示唆は、「就業環境の硬直性を国か行政としての政策で解きほぐすことも大事だが、それと同時に、学んだ人と受け入れる側のすり合わせの質を丁寧に高めること」の方が、即効性があるのではないかということです。
別の見方をすると就業マッチングの考え方を再構成する、とでもいいましょうか。

話が見習い店舗から、地域の事業者と求職者のマッチングに話はそれてしまいましたが、 特に少子化、若手の都心への流出、高齢化によって働き手に対する不足感が顕在化している「地方」こそ、 人がいない、働き口がないという前に、また政策として育成や雇用創出を実行する前に、働き手と雇用側の丁寧で創造的すり合わせのよる就業マッチングの余地は大きく、かつこれが育成の場であり、企業側としては足りないスキル獲得によってデジタル化や事業戦略の実現ができるのはないか?というものです。

生成AIが「見習い」の敷居を下げる

ここまでの話に加えて、生成AIの登場は、この「見習い店舗」モデルの実現可能性を大きく押し上げていると考えます。

かつてなら、業務システムの導入支援をするには相応のプログラミング経験が必要でした。経営改善の提案書を書くには、MBA的な前提知識であったり、百戦錬磨の経営者のアドバイスをするための思考力やメンタリティ、それなりの分析スキルやドキュメント力が求められました。

今は違います。AIと対話しながら、業務の整理もできるし、簡易なツールも作れます。もちろんAIだけで完結するわけではありません。

しかし、「見習い+AI」の組み合わせは、一昔前の「中堅実務者」に匹敵する成果を出せる場面が増えてきたのではないでしょうか。

つまり、見習いが現場に入るハードルが劇的に下がっています。

地方こそ「見習い店舗」の先進地になれる

本稿をまとめさせてください。
人材育成の課題は「教育の質」だけでなく「実践の場の設計」にあると考えます。

その設計を重心を、学ぶ側と受け入れる側の期待値を戦略的に調整することと、この調整を担う仲介者(行政や民間の教育事業者)の設定にあるか考えます。
そして地方には、この仕組みが機能する土壌が豊かに広がっています。

東京すしアカデミーはそれを2ヶ月に縮めた上で、さらに直営店舗という実践の場まで用意できたことを考えると「飯炊き3年、握り8年」は寿司の世界の常識も今後更新されていくかもしれません。(某インフルエンサーのスタンスの乗らせていただきますと)。

地方の人材育成にも、同じ発想の転換が必要だと思っています。
教室の中で完結する教育から、地域の現場を「見習い店舗」に変えていく設計へ。 アイデアを生む教育と、アイデアを試す現場を一体で設計すること。それが私たちの応え方です。

見習い店舗は、まだカウンターに立ったことのない人にとっては怖い場所です。でも、お客さんもそれを分かった上で暖簾をくぐってくれる。その信頼と覚悟の交差点に、人が育つ瞬間があります。

執筆:コードキャンプ株式会社 ラーニングソリューション事業部 事業部長 下山

金融・IT・教育の各界で一貫して人材育成に従事。現在は大手企業から官公庁まで、DX中核人材の企画・運営を幅広く統括しています。理論だけではない、組織を変えるための「実践知」を配信します。

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